白洲正子の愛した「平野屋」=鮎のせごし・焼き鮎 京都グルメ(2011.6.22)
白洲正子の愛した「平野屋」
――焼き鮎 京都グルメ
京都府京都市右京区嵯峨鳥居本仙翁町16
075-861-0359
化野念仏寺(あだしのねんぶつじ)を訪ねたついでに少し足を伸ばし、鳥居本の「平野屋」を訪ねた。名エッセイストの白洲正子がこよなく愛した「焼き鮎」で有名なお店である。今回は時季も冬、下見に留め、お抹茶を頂いて帰ってきた。 一月ということで、外の緋毛氈の腰掛でのお茶の所望は勘弁していただき、店内へと足を踏み入れた。薄暗い土間からすぐの上がり框(がまち)のところの懐かしい木組み火鉢を配する八畳ほどの部屋へ案内された。 まず、桜茶が提供された。淡い桃色の花弁が浮くすこし塩分のきいたお茶に、昔の愛宕詣の人たちは乾いた喉を潤したのだろう。 それから茶菓子に「柚子しぐれ」が供され、お薄が出てきた。桜茶で渇きを癒した客は、今度は砂糖のきいた菓子で口内をまろやかにし、そしてぬる目のお薄をいただいたのだろう。店の奥には個室がいくつもあるのだろうが、この日は平日の夕暮れ前ということで、店内はひっそり森閑としていた。わたしは誰はばかることなくゆっくりとくつろいだあと、「次は家内と一緒に焼き鮎を食べに来るよ」と約束し店を出た。 車が店を離れた。 窓外を見ると、わざわざ見送ってくださる着物姿の仲居さんが居る。軽く頭を下げると、彼女は丁寧に頭を垂れた。 そして寂しげに置かれていた軒先の緋毛氈の腰掛けとともに、その姿は小さくなり、やがて視界からも消えていった・・・。
朱色も鮮やかな愛宕神社の一の鳥居を右に抜け、すぐ手前に「つたや」さん、奥に「平野屋」さんと二軒並んで「焼き鮎」の店がある。山気に満ちた山間地の茅葺の風情ある店構えが、四百年という長い店の歴史を問わず語りに語ってくれる。
木組み火鉢 玄関の間 懐かしい火鉢
内部も山窩(さんか)の日々の営みを色濃く染み込ませた趣ある造作となっている。