「0.5263」を大きく報じぬ大手メディアの報道姿勢(上)(2007.9.10)
「0.5263」を大きく報じぬ大手メディアの報道姿勢――格差社会(中)(2007.9.12)
たとえば厚労省は所得再分配で格差を平等化しているというが、世帯間格差の視点からは、再分配所得で29歳以下が年収で1世帯平均259.0万円、30〜34歳で463.9万円となっている一方で、75歳以上の世帯当たりの平均再分配所得は498.6万円である。少子化を解消すべき最も重要な責任を担うべき世代の若年層の世帯年収を75歳以上の高齢層が上回る形となっている。世代間格差の問題は、「安心できる老後」という名のもとに根の深い形で歴然と存在している。
さらに地域間格差の観点からは当初所得で見ると、最高位にある東海ブロックの550.3万円と最低の北海道ブロックの308.9万円では、241万円の所得格差が存在する。また所得の再配分を行なった後で見ても、最高位の北陸ブロックの632.1万円と最低の南九州ブロックの410.6万円で221万円もの大きな格差が存在している。地域間格差もかように存在しているのである。
8月24日に発表された「所得再分配調査」は単なるジニ係数のみでなく、社会問題化している格差社会を多面的に捉えるのには、まさにタイムリーできわめて重要な報告書である。その報告書の報道に当たって、常々、「ネットカフェ難民」といった社会事象には飛びつくメディアも、こうした報告書の詳細な中身についてはほとんど触れることなく、当局の「調査結果の概要」といった5ページほどのレジメを参考にしたとしか思えぬ通り一遍の報道が多過ぎるのである。
格差社会を本当に深刻な問題と受け止めているのであれば、報告書のデータをしっかりと読み込み、深堀りした報道がなされて然るべきである。しかし、大手新聞社、テレビ局のこのジニ係数が過去最悪の数値を記録したことの報道は、あまりにも表層的であり、当局発表をほとんどそのままなぞったような内容の記事、ニュースが垂れ流されるのを見ると、この国のメディアの権力チェック機能とは一体、何なのかと本気で首を傾げざるをえない。
今回の調査では一世帯当たりの平均当初所得額は465.8万円、再分配所得額は549.5万円であり、両数値とも3年前の02年調査時よりもさらに減少している。職員の年収が40才で1500万円を超えるテレビ局や40代後半の新聞社の地方支局長の年収が1900万円といった職員厚遇の大手メディアにとって、「ネットカフェ難民」が存在する格差社会は実は居心地のよい社会なのであろうか。そうも言いたくなるほどの今回の軽い扱いなのである。
この冒頭で述べた給食費や保育料滞納問題については、あきれた保護者やイチャモン保護者の問題に話題が片寄って報道がなされることが多かった。しかし、今回のジニ係数「0.5263」を知ったからには、そしてその報告書の中身を子細に検証してみれば、保育料滞納理由の19.4%が「保護者の収入減少」を滞納原因としてあげている事実。社会保障給付を受け所得の均等化は進んでいるはずなのに、なお保護者負担額の少ない低所得層に滞納者が多いという事実。また給食費滞納理由で、宮城県の例では「保護者の経済的な問題」が39%に上っているという事実にこそ、大手メディアは目を向け、大本営発表を鸚鵡返しにするのではなく、常に権力のチェックを行う姿勢を忘れずに民主主義の「知る権利」を担保する国民の負託に堪える報道をするべきではないのか。今回の一連のジニ係数報道を一覧して強く思ったところである。