第22回参議院選挙戦終盤の7月10日、菅首相は福井県坂井市内の街頭演説で、「政治とカネとか、普天間のことで少しご心配をおかけしたが、それもクリアして、いよいよ本格的に時計の針を前に進めようという時のこの選挙だ」と、声を張りあげた。 

 6月17日の参院選公約発表記者会見で、菅直人首相が「(自民党の)消費税10%を参考にする」と発言したことから、今回は、あたかも「消費税増税」の賛否が争点であるかのような選挙となった。そうした騒動のなかで、「政治とカネ、普天間」はクリアしたとの、とんでもない菅首相の政治認識が示された。

 

 一部報道機関はその発言を取り上げたものの、発言が投票日の前日であったため、各種メディアは選挙特集番組や投開票報道へとなだれ込み、結果として、この重大な発言は看過されたままとなっている。

 

 まず、「政治とカネ」の問題であるが、鳩山前首相、小沢前幹事長だけでなく、小林千代美前衆議院議員と北海道教職員組合の違法献金事件など、公党としての説明責任を果たしていない。野党時代には、「ナントカ還元水」とか事務所経費問題で騒ぎまくった民主党が、もっと巨額の政治資金の不透明な流れにメスを入れることをしない。

 

 当然のことながら、国民は秘書が逮捕され立件されている鳩山、小沢両議員の政治資金問題がクリアされたなどと思ったこともないし、言ったこともない。

 

 次に「普天間米軍基地の移設」問題だが、この問題の迷走、行き詰まりで、鳩山首相は退任したのではなかったのか。菅首相は就任早々のオバマ大統領との電話会談において、5月末に結んだ「県内移設」の「日米合意」にしっかりと取り組んで行くことを伝えた。多くの沖縄県民が怒りを以って県内移設を反対するなか、県の頭越しに強行された日米合意。

 

 仲井真沖縄県知事が「いまや県民の(県内移設の)合意をとることは極めて難しい」と、不快感を以ってたびたび語っていたにも拘わらず、菅首相になっても、沖縄に事前のひと言もなく、電話会談で「県内移設の日米合意」の踏襲をオバマ大統領に伝えた。

 

 またまた、地元無視、沖縄県民の被差別感情を逆なでするような首相の政治手法と暴言である。

 

 こんな状況で、どこをとって「クリアした」と判断したのか。菅首相の政治課題認識の甘さに愕然とするしかない。その同じ思考回路のなかに、「消費税10%」発言があったことは容易に推察される。

 

 鳩山前首相に続く最高権力者の「言葉の寸毫(すんごう)の軽さ」が、またこの国の国益を大きく損なおうとしている。それをさせないためにも、「政治とカネ」と「普天間」の「クリア」発言について、菅首相にその発言の真意を問いただすべきである。