2016年9月、倦怠期に木屋町通りの「割烹やました」のランチは格別!(2016.9.30)
2014年祇園祭・山鉾巡行前祭(さきまつり)に興じる(2014.7.21)
2013年・水無月の割烹“やました”、“あこう”の洗いで初夏の爽やかな音色を聴く=京都グルメ(2013.7.1)
中京区木屋町通二条下ル上樵木町491−3 ☎075−256−4506
7月17日、山鉾巡行が終了した夜、京都の知人ご夫妻と“割烹やました”で会食をした。
祇園祭の本義である神幸祭の神輿渡御が木屋町通りすなわち“やました”の前を通ることを知ったので、この日に“やました”を予約した。
要は、“やました”の料理に舌鼓を打ちながら神輿渡御も観覧するといった一挙両得、ぜいたくな目論見を立てたというわけだ。
加えて一年半ぶりの再会となる旧知のご夫妻と積もる話も同時に楽しもうとイベント、テンコ盛りな“やました”の夜を計画したわけである。
6時の予約にあわせ押小路橋を歩いていると“やました”の前で祭りの出店を準備する大将の姿を認めた。
え〜っ! やました”が出店屋台?と訝(いぶか)るわたし、つい、「大将! 商売熱心だねぇ」と声をかけた。
気づいた大将が何か言うがよく聞こえない。近づくと缶ビールやらペットボトル飲料を氷で冷やす仕度中である。
神輿を挙げる連の人たちへの差入だという。当方、冗談にせよ商売熱心だねなどと声をかけたことに、少々、赤面の態。
それと、“やました”へ通うのに一斗樽を積んだ高瀬舟が見えないのはちょっと情緒に欠けていた。
当日はまだ明るい高瀬川にひとまわり大きくなった高瀬舟が新調なって浮かんでいた。そこで一枚、写真を撮った。
高瀬舟が浮かぶ景色、京都情緒たっぷりのまことにいい雰囲気である。
さて、店内、いつものカウンター奥の席へ陣取った。
早速、乾いた喉を潤すべく恵比寿ビールを注文、それから“桃の滴”の冷酒をいただく。
料理の方は今回のサプライズは“鱧の洗い”と“冷やし肉”。
これまで“やました”の鱧と云えば“炙り”であった。もちろん、当夜も炙ってもらった。
ところが、芹生君が“鱧の洗い”はいかがですかとさらに問う。
「エッ? 鱧の洗い」と問い返すと同時に「それもちょうだい」と即答する。まだまだ私も若い、すばらしいクイックリスポンス、条件反射能力であると妙なところで悦に入る。
ともあれ、この洗いには正直、唸り声を上げた。この発想、仕上げにはアッパレというしかなかったのである。
あまりにも新鮮な食感! 炙り鱧にも、もちろん湯引きの鱧など遠く足元にもおよばぬ斬新なまさに炎暑に涼を呼び込む食感である。
常に食材の新たな調理法を追い求める“やました”の姿勢に恐れ入り、またまた惚れ直したところである。
次に“冷やし肉”なる、これまたこんなお肉の食べ方、初めてという代物。
実のところ男性陣は網焼きを頼んでいたのだが、お隣のご婦人方の前にならぶお肉に目がいった。
それに気づいた女性陣がおひとついかがと憐憫をかけてくれたので、この新たなる珍味にありつけたもの。
二杯酢でさっぱりと“涼”をいただく、美味である。
炎暑の夜に斯様な涼を次々と演出する大将の凄腕にあらためて驚嘆するとともに、衷心からの敬意を表するところである。
そして、いよいよもうひとつのビッグイベント、神輿渡御の始まりである。
まだまだ明るい午後7時少し前。神輿を先導する行列が“やました”の前の木屋町通りに入ってきた。
お客さんも一時、食事を中断、外にて観覧。駒形稚児や騎馬で進む神官の行列がつづく。
神輿の前にこれほど本格的な行列を見たのは初めてであった。
7時17分。三若神輿会の担ぐ中御座神輿が“ほいっと、ほいっと〜!”の掛け声とともに近づいてきた。
道路を埋め尽くす人、人、人にはビックリ。
中御座は六角形の屋根に鳳凰を冠し、ご祭神は八坂神社の主祭神・素戔嗚尊(スサノオノミコト)である。
何しろすごい人数が次々と店の前を通り過ぎてゆく。
中御座を見送ると、一同、一旦、店内へ戻る。
午後9時前、錦神輿会が担ぐ西御座がやってきたので外へどうぞとの声。大将以下、お客とともに道路へ出る。さすがにもう外は真っ暗。
だが、神輿が近づくにつれ人の大群が押し寄せるようなどよめきが聴こえる。
“ほいっと!ほいっと!” 西御座神輿が現われる。
屋根が八角形の鳳凰を冠するこれまたりっぱな神輿である。ご祭神は素戔嗚尊の御子たちである八柱御子神(ヤハシラノミコガミ)。
錦神輿会のメンバーは“やました”が仕入れでお世話になる錦市場の人たちが大勢いるのだという。
“やました”の前で神輿もしばし休憩。担ぎ手の人たちも乾いた喉を潤す。大将が準備した飲料の前は昂揚した連の人たちの熱気があふれる。芹生君や女子衆もお世話に大活躍。
そんななかを粛然と騎乗の神官が行く姿もこれまたすばらしい。
そして、神輿はふたたび大勢の担ぎ手に担がれ、暗闇に“ほいっと! ほいっと!”の響(とよ)みを残し四条の御旅所へと去っていった。
嵐のようにやってきた神輿を見送り、暖簾の方を見返ると大将が満足の笑みである。
神輿渡御の迫力と行列の厳かさを目にし、1100年の歴史を有する祇園祭の本義・神幸祭は京都の町衆に支えられてきたまさに神儀であると実感させられた。
路傍から観覧するだけで祭の当事者のような高揚感を味わったわれわれはふたたび店内へ戻り、じっくりと“やました”の料理を堪能。
神輿渡御を“やました”の前で観覧するという最高の祇園祭を過ごすことが出来た。満足この上ない一日であった。
そして、“やました”の“もてなし”の真義が大将の日頃の心映えにこそあったのだと心底、納得した。
2014年の“割烹やました”!!
祇園祭の神輿渡御を観ながら料理に舌鼓をうつという新たな“やました”の魅力を発見した一日でもあった。
そして最後に新料理長を紹介しておかねばならない。安達料理長である。
以前、長年“やました”におられたということで、これから勝手知ったる板場で大将の右腕として思う存分その腕を振るっていただけると大いに期待している。
何せ、当夜は神輿見物に出たり入ったり、久しぶりの旧知の友との語らいとやたら忙しく慌ただしい時間を“やました”で過ごした。
次回にじっくり安達さんとお話できることをきたいして2014年の“やました・訪問記”の筆を置くことにする。