タクシー料金値上げをめぐる「美しくない」三人
タクシー料金値上げをめぐる「美しくない」三人

大分県、長野県に対し国交省はタクシー料金の値上げを認可した。長野県では初乗りの上限料金が640円から710円(10.9%)、大分県で560円から620円(10.%)への上昇となった。

 

タクシー運賃についてはこれまでに全国の営業地域から続々と値上げ申請があり、現在、東京(特別区・武蔵野・三鷹地区)地域についても審査中である。6月中にも値上げ認可が下りる見通しであったが、参院選への影響でも配慮したのか急きょ8月以降に先送りされる見通しになったという。

 

当初、冬柴国交省大臣は今回の運賃値上げの主な理由として、「タクシードライバーの労働条件の改善」と「原油等燃料費の高騰」の二つを挙げた。また、内閣府の「物価安定政策会議」における大田弘子経財相などの反対意見表明を受けて「私はタクシー業界に同情的なわけではない」と業界寄りとの見方を否定したうえで、「運転手の今の労働賃金を考えたら大変なことだ。年間三百三万円という収入で十六時間くらい走っているのではないか。それは改めないと生活ができなくなる。そうした実態をふまえて(この時期の運賃値上げを)判断したい」と述べていた。

 

そう言っていた矢先の模様眺めの対応である。行政当局の長としてこれまでの理屈の一貫性、発言の重みをこの御仁がどう考えているのか問わざるを得ない。「大変なこと」が「大変じゃなくなった」のならご同慶の至りだが、タクシー業界を巡る厳しい状況に何の変化もないのだから、これまでの値上げ容認発言に対しどう責任をとるつもりなのか、まことに「美しくない」のである。

 

さて、タクシー運賃の値上げの動きについてはそれに先立ってまとめられた一編の報告書が存在する。

 

国交大臣の諮問する「交通政策審議会陸上交通分科会自動車交通部会」が、平成187月に発表した「タクシーサービスの将来ビジョン小委員会報告書」である。その報告のなかで「タクシーの(厳しい)現状」が数字に基づき具体的に語られている。

 

まず年間の輸送人員は平成16年度で224千万人である。昭和45年に429千万人と過去最高を記録して以来、その数字はほぼ一貫して下落。平成の御世に入ってもその減少傾向に歯止めはかからず、とくにここ34年はピーク時の半分の水準という厳しい状態が続いている。

 

その一方で、タクシー・ハイヤーの営業車両数は平成12年度から急激な増加を示している。平成16年度は27万台とこの4年間で5.6%の高い伸び率となっている。同期間の年間輸送人員はマイナス7.8%と減少しているのにである。

 

また、タクシー運転手の年間所得は平成3年をピークに減少し続け、平成17年には302万円と、全産業平均所得との比較において平成3年に81%あったものが、55%の水準にまで落ち込み、業界の厳しさは想像以上のものがある。

 

言うまでもないが商品の「価格」やサービスの「料金」というものは需給関係で決まることは市場論理のイロハ中のイロハである。需要が供給を上回ってくれば、価格は上昇するし、その逆であれば下落する。いたって簡単な理屈である。

 

先の報告書では明らかに需要が供給を下回っているうえに、近時さらにその需給格差は広がる傾向にあった。そうした状況で、なぜこのような市場論理に反した「運賃値上げ」といった理屈に合わぬことが起きようとしているのであろうか。

 

その遠因を探ってゆくと平成14年の「改正道路運送法」の施行に突き当たる。

 

今から五年前の経済状況は、戦後の混乱期を除いて完全失業率が5.4%と史上最悪の水準まで上昇、東証株価も最安値が8303円とさらに底値を模索、名目GDP成長率もマイナス1.4%とデフレ経済の真っ只中にあった。平成10年に32千人を記録した自殺者数も5年連続で3万人台を越える状況が続き、社会不安は高まり、一種、恐慌前夜といった雰囲気があった。

 

そうしたなかで「改正道路運送法」が施行されたわけだが、それは従来の「需給調整規制を廃止」と「運賃改定の自由化」をセットで行なう、規制緩和を大義名分とする法律改正であった。それは市場原理原則に基づいた経済運営へとこの国が大きく舵を切っていった大きな流れのなかでの一コマであった。

 

規制緩和という大義名分は、従来、競争を恣意的に抑制してきた規制をはずし、市場を自由な競争原理に任せれば、自ずから効率性の高いもの、競争力のある事業者のみが淘汰され残ってゆくことで強い筋肉質の経済構造が構築され、結果として景気は回復するというものであった。

 

企業倒産が19千件を超え、失業者が街に溢れる状況のなかで、雇用の受け皿としてタクシー業界の「事業参入規制の撤廃」、「車両台数規制の撤廃」といった規制緩和がタイミングよく取り払われたのである。失業対策にこの業界がうまく使われたと言ってもよい。

 

このことによりタクシー・ハイヤー事業者数は平成13年の53千社から平成16年の55千社へと約2千社の増加を見、3.5%もの上昇を示した。そして車両数も前述のように27万台へと増加の一途を続けている。

 

需給関係が悪化の一途をたどるなかで、なぜこうしたことが起きてしまうのか