朝日新聞本社ビル
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1月20日、いよいよドナルド・トランプ氏が第45代米国大統領に就任する。共和党候補であったトランプ氏は昨年の11月8日、大方の予想を裏切ってヒラリー・クリントン氏を破り、米国大統領の指名を確実にした。

 

そのトランプ氏であるが過激な発言で米国にとどまらず国内外に様々な軋轢を生みだし、批判の集中砲火を浴び、中傷されてきた。それがゆえに選挙期間を通じて抜群の注目を集めてきたことも事実である。

 

そんな次期大統領であるが、当選後もツイッターでの呟きでまたまた世界の耳目を集め、その一言一言が世界のマーケットを動かし、世界の首脳を苛立たせ、メディアの反発を買った。

 

そして選挙後の2か月後の1月11日になって、ようやく選挙後初のいわゆる記者会見というものを開いた。CNNでその模様をみていたが、会見終盤の場内の迫力と緊張感はへたな映画よりも数十倍、いやどんな映画よりも真に迫り(真実の光景なのだが)、手に汗握るとはこのことなのだと知った。それほどにがなり立てる映像は生の迫真性のすごさを見せつけた。

 

トランプ氏が発した言葉の数々に既存メディアに対する同氏の強烈な不信感と猛烈な敵意を感じた。

 

会見が1時間6分を過ぎたあたりからトランプ氏のメディアへの敵愾心があらわとなった。ロシア当局がトランプ氏を恐喝できるみだらな情報をつかんでいるといった報道を流したネットメディアのBuzz・Feed(バズフィード)につづいてその一部を伝えたCNNの記者に対して怒りが爆発したのだ。その様子は仮にも10日後には世界最高の権力を掌中にしようとする人物の言葉とは信じがたいものであり、記者席からもまた壇上からも飛び交うすさまじい怒号は史上稀にみる映像にわたしの目は点になった。

 

その間、トランプ氏は「GO Ahead(次!)」と別人に質問を促すのだが、それを無視して質問を発し続けるCNN記者(ジム・アコスタ記者)に業を煮やし、指でさして「QUIET(黙れ!)」、「Not YOU(おまえじゃない!)」、 「You are FAKE NEWS(お前は偽物のニュース(記者)だ)」、「You are ORGANIZATION TERRIBLE(ひでえ会社だ)」と罵詈雑言を浴びせるという悪態の限りをつくした。

 

その映像は世界中に流されたが、民主主義国家の代表、指導者を自任する米国のトップに君臨する大統領候補と米メディアの会見とは思えぬ醜態をさらすものであった。

 

しかし、わたしはその修羅場を目にしながら、選挙期間中を通じてトランプ氏に対する特に大手メディアの執拗なネガティブキャンペーンを考えると、同氏がメディアという第四権力(the Fourth Estate)を敵対視し、根深い憎悪の念を露にするのもわからないわけではないと考えていた。

 

というよりも選挙期間中の米メディア、特にテレビ局の報道は目を覆いたくなるようなものがあった。ABCだったかNBCだったか忘れたが、トランプ氏とのインタビュー時に金髪がカツラではないかといってキャスターが一応、同氏の了解はとっていたが、手で髪の毛を鷲掴みにし引っ張り、本物の髪の毛だと証明できたという場面があった。

 

米国の一方の大統領候補である人物に対する敬意のかけらもなく、逆に見下したようなその蛮行にわたしは正直、驚いた。

 

その時、トランプ氏は、クシャクシャにされた髪の毛を手でならしながら複雑な笑みを浮かべていた。はらわたが煮えくり返っていたと思うが、トランプ氏が心中で「この野郎」と叫んでいたことは想像に難くない。わたしはその場で、「無礼である」と一括し、退席しても一向にかまわぬと思ったものだ。思いあがったメディアにわたしは別の意味で吐き気と憎悪を覚えたのである。

 

一昨日あたりであったか、トランプ氏は大統領になっての記者会見室にすべてのメディアは入りきれぬと発言した。選別をするぞとのメディアへの宣戦布告である。ツイッターを多用するトランプ氏。メディアを介さずに直接、自身の意見を伝える。メディアにいいように編集されることのない、本物の情報発信であるともいえる。140字で複雑な国際情勢、政治課題について語るのは不適切で、問題が多いと大方の識者は語る。しかし、自分たちの興味に関するところをつまみ上げ、それをニュースと称して配信する昨今のメディアをみると、言葉は練れていなくとも、本人が生でつぶやく言葉のほうが価値があり、直に接することのできる情報としての価値は、既存メディアが都合よく世論誘導をするために発言や情報を編集しなおした記事とは比較にならぬほどに、高いものがある。

 

1月12日に、NHKニュースやTBSなどテレビ各局で三島由紀夫の市谷の自衛隊で恰幅視察する9か月前にインタビューを受けたテープがTBSで発見されたと報じられた。自分の作風について率直な意見や文学論を語る一方で、憲法についての考え方も披瀝していた。

 

すなわち、

「憲法9条ってのは全部いけないって言っているんじゃないんです。つまり人類が戦争しないというのは立派なことです。平和を守るというのは立派なことです」

 

「(憲法9条の)第2項がいけないんでしょ。第2項がとにかく念押しの規定をしている。念押しをしてきているのをですね、日本の変な学者が逆解釈してね、自衛隊を認めているわけでしょ」

 

「ぼくは大嫌いなんですよ、そういうことが。ぼくは人間をごまかしてね。そうやって生きていくということが耐えられない」

と、解釈憲法で国家を運営していくことのまやかしを鋭く突いたものである。

 

戦後言論界の一方の雄であり、文明批評家としても一流の人物が現行憲法の問題点を語ったものとして、この発見は貴重であるし、戦後思想界の一級資料と評してもよい。

 

そんな資料について翌日の朝日新聞は「死が肉体に入ってきた 文を抽象的に塗る欠点」と三島由紀夫の肉声テープ発見の内容を報じた(朝日のネットニュースでは全文が読めぬようにされているので、150円をだして購入した。新聞って今150円もするんだとビックリ)。朝日の報じる内容が気にかかったので購入したのである。案の定、他社が報じた憲法改正に言及した部分は見事に無視されて、憲法のケの字もない記事であった。

13 朝日新聞 三島由紀夫肉声テープ発見
2017.1.13 朝日新聞記事
国防に殉じる自衛隊に正当性を与えるためには憲法改正が必要であるとした三島の主張は、その後の市谷の自衛隊突入、割腹自殺の主因である。こうした大切な歴史的事実を護憲や憲法9条死守といった社論に反するものであるとして、まったく伝えぬ報道というのはどう考えてもおかしいし卑怯である。新聞と呼ぶより機関紙と呼ぶのがふさわしいと考える。

 

今回、報道ステーションをチェックしていないので、テレビ朝日がどう伝えたかについて言及はできない。しかし、2015年11月25日に報道した「検証・三島由紀夫事件〜45年目の真実〜」でのコメンテーターのコメントは三島がバルコニーで発言した「もうこれで憲法改正のチャンスはない」という憲法改正が必要であると絶叫したことも完全無視したものであったことに鑑みるとおよそ察しはつくというものである。

 

トランプ次期大統領が既存メディアとこれから対峙し、情報をどのように発信していくか大きな関心を抱いて見守っていきたい。

 

わが国の報道機関も対岸の火事と拱手傍観する暇はないと考える。先日発表された数字でも新聞購読数が昨年よりもまた百万部弱の減少となった。国民のメディアに対する目は日に日に厳しいものとなっている。真実を伝える、事実を伝えることにわたしはメディアの原点はあるはずだと考えるが、いかがであろうか。