「取り囲む記者団の一人に防災服の袖をなすりつけるようにして『放射能をうつしてやる』などと語った」ことについては、この報道がその通りだとすれば、これは原発を所管する担当大臣の発言として、即、『レッドカード』である。政治家いや日本人として、そもそも発すべき言葉ではない。野田佳彦首相が語る国民の心に寄り添う、国民目線の「どじょう政治」とは対極に位置する発言である。
民主党の政治家たちはどうしてこの手の『国民の心に寄り添わぬ』言葉を次から次へと繰り出すのだろう。政権を担っているという緊張感や重責感が見事なまでに微塵も感じられないのである。
鉢呂吉雄経産大臣も「放射能をうつしてやる」発言に関しては、それ相応の重い責任を取らねばならぬ。
この「うつす」発言の前に、大手メディアで大きく伝えられたのが、同じ鉢呂大臣の「死のまち」発言である。
この発言は鉢呂経済産業大臣が、野田佳彦首相に同行した9月8日の福島県視察について、9日の閣議後の記者会見でなされたものだが、一部大手紙はその「死のまち」という表現について、「原発事故やその後の対応で政府の責任が問われる中、担当閣僚自身が周辺地域を「死のまち」と表現したことは波紋を呼びそうだ」(9月9日付読売新聞)、「「残念ながら周辺市町村の市街地は人っ子一人いない『死の町』だった」と語った。「死の町」との表現に配慮を欠くとの批判も出そうだ」(同日付産経新聞)と、不適切であり今後問題となるとの見方を伝えた。
鉢呂大臣の「死のまち」発言の詳細は次の通りである。
「東京電力福島第一原子力発電所事故の(略)現場は、まだ高濃度で汚染されていた。(中略)大変厳しい状況が続いている。福島の汚染が、私ども経産省の原点ととらえ、そこから出発すべきだ。事故現場の作業員や管理している人たちは予想以上に前向きで、明るく活力を持って取り組んでいる。3月、4月に入った人もいたが、雲泥の差だと話していた。残念ながら、周辺町村の市街地は、人っ子ひとりいない、まさに死のまちという形だった。私からももちろんだが、野田首相から、「福島の再生なくして、日本の元気な再生はない」と。これを第一の柱に、野田内閣としてやっていくということを、至るところでお話をした」
この発言を、前後の話の流れのなかで素直に耳を傾ければ、「死のまち」という語感は少々きついものの、「原発事故現場は事故発生当時の極限状態と比べれば雲泥の差で落ち着いてきているが、原発周辺の町の方は、残念ながら依然として、荒涼として悲惨な状態のままである」と、原発事故の悲惨さを目に映ったまま正直に語ったものだと云える。
表現がややストレート過ぎたのかも知れぬが、「うつす」発言とは異なるもので、不見識とか不誠実というのとは別次元の話だと云ってよい。
「死のまち」発言について一部メディアが大騒ぎするのに慌てたのか、台風豪雨被災地を視察中だった野田首相が、自分が任命した大臣の釈明も聞かずに、記者団に対し「不穏当な発言だ。経産相には謝罪して訂正してほしい」と述べたのも首相としての見識を疑うところである。
またその発言を受けた鉢呂大臣が謝罪、撤回したのも、自分の発した言葉にあまりにも責任を負わぬ、言葉が命のはずの政治家としての適性を著しく欠くものであると断じるしかない。
そして、この謝罪撤回に追い込んだ読売新聞などが、「鉢呂経産相「死のまち」発言を撤回、陳謝」との見出しで次のように報じたのも、あまりに意図的であると、メディアの報道姿勢として問題が大きいと指摘せざるを得ないのである。
即ち、「『被災地の皆さんに誤解を与える表現だったと真摯に反省し、表現を撤回し、深く陳謝申し上げる』と述べ、発言を撤回した」と報じたのである。鉢呂大臣は発言を撤回したのではなく、表現を撤回した、すなわち、伝えるべき事実を撤回するのではなく、表現が不適切であったので表現のあり方を撤回すると云っている。
だから、本来であれば、「表現を撤回するのであれば、今度はその町の様子をどう表現するのか」と、聞き返し、大臣が伝えたかった事実を報じればよいのではなかったのか。
どうも言葉狩りと言おうか、揚げ足取りと言おうか、メディアの意図的報道のあり方にも、いまの政治を混乱させる原因があるように思える。
鬼の首を取るのには大きな勇気がいる。しかし、いまの政治家、民主党政権は怖ろしい鬼にはほど遠い、大衆のご機嫌をとるのに汲々とする小心者の集まりである。大臣を辞めさせればメディアの勲章、勝ちであるとばかりに、意図的な報道、表現を駆使するメディアの方こそ、社会の木鐸などちゃんちゃらおかしい、国民を愚弄する獅子身中の虫であると言わざるを得ない。
メディアも政治も、どっちもこっちも、国民軽視も甚だしい、権力をもてあそぶ輩(ヤカラ)であると、非力で醒めきった国民は嘯(ウソブ)くぐらいしか能がないのが、正直、切ないところである。
ヤレ、ヤレ、本当に困ったものだ・・・