今夏の蓼科は直前の集中豪雨のため予約客のキャンセルが多かったとかで、道路もレストランも空いていた。
だから、TATESINA in SUMMERを独り占めにした気分である。
7月31日は天気に恵まれ、御泉水自然園へ久しぶりに向かった。
16、7年前にリフトで蓼科山に登って以来の往訪である。
その頃は若さゆえなのか、自然の美しさは認めるものの、その優しさや、目に見えぬほどの、些細だが必死の営みに気づくことなどなく、どちらかと言うと自然に対して傲慢な向き合い方をしていたようだ。
御泉水自然園の景観自体は熟成してきているのだろうが、基本的に以前と大きな相違はないのだろう。おそらく、わたしの心持ちの方が大きく変わってきたのだと思う。
だから、そこここに何げなく咲く小さな花がいとおしい。
そして、その小さな世界に繰り広げられる日常的な自然の営みに目がゆくのである。
このアザミにとまり、無心に蜜を吸う蝶と蜂と名も知れぬ虫・・・。
自然界に必要とされぬ生命(いのち)などないのだという、ごく当たり前のことを、日常の慌ただしい生活の中でつい忘れ去っている大切なことを、教えてくれた自然の貴重なひとコマである。
とくに高原の風に身をまかせゆらゆらと空中に揺れる猿尾枷(サルオガセ)という地衣類を目にしたときには、共生という自然の底知れぬ智恵に、正直、頭が下がったものである。
そして、御泉水自然園を出た帰りに女神湖を望んだ。肌をなでてゆく微風が心地よい。
いつしか蓼科高原という自然の濾過装置をくぐりぬけた心身は、ひさびさにオーバーホールされた古時計のごとく、あらたな時をまた刻みはじめている。空気もおいしい・・・さぞかし・・・晩ご飯も・・・