11月8日の米大統領選の候補者、ヒラリー・クリントン氏(民主党)とドナルド・トランプ氏(共和党)が26日午後9時(日本時間27日午前10時)からニューヨーク州のHofstra University.NYにおいてTV討論を行った。

 

9時少し過ぎ、両候補者はディベート会場であるHofstra Universityに特設された壇上に登場、双方、握手を交わしたあとNBCテレビのニュース・アンカーであるレスター・ホルト氏の司会によりディベートがスタート。

 

最初のテーマは雇用問題など経済政策で始まり、TPPなどの貿易問題、人種差別問題、イラク問題や核拡散など安全保障の問題、NATO・日本・韓国などとの同盟関係の考え方、テロ対策、Birtherism(オバマ大統領はアメリカ生まれでないので大統領として不適格とする運動)、トランプ氏の納税問題などさまざまな分野,関心事において意見が戦わされた。

 

90分の予定時間であったが、討論は初回から白熱し、予定を8分超過しての終了となった。

 

雇用問題ではクリントン氏はインフラ投資の拡大により雇用を創出するとした。一方でトランプ氏は米企業の海外逃避の制限、メキシコからの関税不平等による雇用喪失などを例示し、減少を食い止めるといった話が中心で、このテーマは双方の話がすれ違う形でまずは互いの主張を述べあった。双方、落ち着いた対応で無難な滑り出しとなる。

 

次にNAFTAやTPPなどの貿易問題ではトランプ氏が実際の閣僚として務めたクリント氏に、TPP賛否について過去の発言のブレなどを指摘。クリントン氏も予想されたことでもあり、危なげない安定した対応であるが、トランプ氏が大統領になったら既存の枠組みを大きく変えることで雇用問題など別次元の展開が拓けるのではとの期待も少しうかがわせた。

 

ディベートの潮目が変わりだしたのが、アフリカ系やイスラム系米国人、有色人種に対するトランプ氏のこれまでの過激な差別発言が議論の俎上に上ってからである。

 

クリントン氏は過去および選挙期間中のトランプ氏の差別発言を具体的に指し示し、大統領としての資質、人としての資質について問題があると指摘。トランプ氏はここあたりから口調も早まり、コップに手を出し口を潤す場面が頻発。クリントン氏の口撃に話を少しずらした返答を繰り返し、最後には女性は妊娠するのでビジネスには不向きなどの過去の数々の女性蔑視発言をクリントン氏にあげつらわれ、一挙にディベートは守勢となる。

 

このテーマ以後はクリントン氏が整理された頭で各々のテーマに具体的かつ冷静に応答するのに対し、トランプ氏はその場しのぎで話しているように見えた。挙句の果てに、トランプ氏は「あなたはこのひと月ほど家にこもってこの討論会の準備に専念していた。その間、わたしは全米を巡り人々声を聴いて歩いた」とクリントン氏に発言。

 

これに対しクリントン氏は、「わたしは大統領になる準備をしっかりしていたのだ」と切り返した。

 

そして、「NATOは今では無用の長物、73%ものコストを米国が負担するなど金がかかり過ぎ」と発言するトランプ氏に対し、クリントン氏は「日本・韓国に核保有を促す発言をするなどNATOだけでなく同盟国に大きな不安を与えてきた、大統領になろうかという者は自分の発言の重み、言葉が世界におよぼす影響を真剣に考えて発言すべきである」と、まるでわがままし放題の放蕩息子を親が諭すような場面では、クリントン支持者たちは拍手喝采であったのではなかろうか。

 

このあたりから討論の最終までクリントン氏は冷静沈着にトランプ氏の口撃に対応し、懐の深さを演じきって見せた。

 

その逆にトランプ氏は各テーマが持つ大きな視点での議論展開がなく、自分が見聞きした些末とも見える事柄を具体例として持論を展開、問題がその一事に矮小化されてしまった感がある。そして、自身の納税問題に関し、「政府が他国を守るためなど多額の無駄遣いをしており、納税をしていないことは賢い判断である」と語った時には、これでトランプ氏は終わったと感じたが、討論終了後の退席時のぶら下がりインタビューでは、「当然、州税は払っている」と答えていたが、この問題は今後とも燻り続けるのではないかと感じた。

 

総じて、トランプ氏は明らかな準備不足であり、少々、ビジネス界での商売口上の上手さを過信し過ぎ、政治とビジネスとは大きな相違点があるという重要な事実を軽んじてきたトガが当夜の討論では随所で見受けられた。

 

結果、わたしの採点はクリントン氏65点に対しトランプ氏は35点となった。

 

CNNが直後に行ったHofstra UniversitySpin Roomでのコメンテーター(両陣営支持者が出席)の議論も当初は候補者のディベートの優劣について穏やかであった。しかし、クリントン氏が勝ったとの評価がその場を支配し始めると、トランプ派のコメンテーターが猛然と反発するなど、その姿はどこか新興宗教の熱烈な信徒のように見えて、やや不気味な印象を受けた。

 

CNNフロリダ州オーランドの投票先未定の選挙人を含めた視聴者22名を現地会場に招じていた。TV討論直後にその優劣を問うたが、クリントン氏勝利が16名、トランプ氏6名(クリントン氏 1:トランプ氏0・38)という結果であった。そのインタビューのなかで民主党支持の若い女性の発言が特に印象的であった。

 

民主党でサンダース議員をずっと指示してきて人物とのことであったが、クリントン氏ができぬことをトランプ氏が代わってやってくれると期待したが「大変がっかりした」と述べたのである。

 

また、討論終了直後のCNNTVによるボタンによるどちらに軍配をあげるかとの投票(ORC POLL)は、この調査に応えてくれる視聴者は民主党支持者が41%と共和党支持者を10%ほど上回っていることを前提(支持政党なしの人も3割ほどいるか?)に、この結果を見てもらいたいとして挙げた数字が以下の通りである。

 

クリントン氏62% トランプ氏27% (クリントン氏 1 に対しトランプ氏 0・44)

11%の人はどちらとも言えぬと回答したものであろう。(  )内は勝敗をはっきりさせた視聴者の中での比率。

 

わたしが討論直後に受けた印象はタイトルに掲げたごとく、クリントン氏65点、トランプ氏35点である(クリントン氏 1 に対しトランプ氏 0・54)。

 

ディベート直後の全米での評価は、オーランドやCNNの視聴者の調査からみれば、倍以上の差でクリントン氏が勝利したといっている。私の採点の方がもう少しトランプが頑張ったと考えたことになる。

 

直後の興奮状態のなかでのぶら下がりインタビューで、ある記者がトランプ氏に「今回のディベートで反省すべきところはありますか?」と質問を発したことが今日のすべてを物語っていたといえる。

 

TV討論は11月8日の本選挙に向けてあと二回開催される。予定は次の通り。

10月9日:第二回大統領候補者テレビ討論会(ミズーリ州)

10月19日:第三回大統領候補者テレビ討論会(ネバダ州)

 

トランプ氏陣営もこのままではまずいと感じたことは確かである。10月9日に向けて今度は万全の対応また反撃の妙手を繰り出してくることは必至である。今回はこれまで以上に我が国の安全保障に重大な影響を与える米大統領選挙である。次回のディベートを大きな関心を持って待つこととしたい。