BS・TBSの「美しい日本に出会う旅・東北の秘湯」(1月14日)という番組で銀山温泉が紹介された。その宿のひとつに古山閣が採りあげられた。
1・古山閣正面
古山閣

大正浪漫あふれる秘境の温泉という謳い文句につられ、即刻、その場でネット予約をした。

01・銀山温泉撮影スポットから
銀山温泉の街並み

NHK朝ドラ「おしん」のロケ場所として有名な能登屋旅館も魅力的であったが、川側の部屋が予約でいっぱいであったうえ、改装をしたのち部屋が新しくなった分、古きもののよさがやや損なわれた感もあるとの口コミもあった。そこで、ベンガラ色の壁と折り上げ格天井という古式な部屋が空いていた古山閣を選択した。

6・招福の間
ベンガラ色の壁に味わいがある和室・招福

TVで紹介された“招福”という部屋にわたしが一目ぼれしたのだ。

7・折り上げ格天井  8・落ち着いた部屋です
折り上げ格天井            落ち着いた和室

その古山閣は木造四階建ての伝統的な日本建築である。

4・古山閣入口  34・アンティークな世界
 古山閣入口              玄関は大正時代にあふれる

内装のすばらしさとともに外観を飾る鏝絵(こて)には職人の技とそれを育てた往時の旅館の主人たちの剛毅な芸心が偲ばれる。

2・三階の右 電気がついた部屋が招寿の間
四季を彩る鏝絵が圧巻

銀山温泉の入口を入ってすぐに古山閣が位置するため、湯治客がまず目にするのが古山閣の鏝絵である。四季の絵柄を鏝(こて)で描いた見事なものである。

25・豪華な鏝絵の古山閣
すばらしい鏝絵が壁を覆う

近くで見れば見るほどその職人芸には驚かされるのだが、一見だけでは彩がゆたかできれいだといった感想に終わってしまうので、3Dの立体的な鏝絵はよくよく目を凝らすことが肝要。

20・3Dな鏝絵・秋祭り
秋祭りを描く凹凸のある鏝絵

まず、食事の前に昼間の銀山温泉をぶらぶらした。ゆっくり写真を撮りながら“はいからカリーパン”やお土産屋に入ったりしても30〜40分ほどでひと廻りできる。

18・はいからさんのカリーパン  カリーパン
銀山温泉名物のはいからカリーパン

と言っても、冬場は白銀の滝のかなり手前で積雪により侵入不可。橋を渡って、“そば処滝見館”の玄関先をちょっとお借りして何とか白銀の滝を見ることができた。

24・白銀の滝
白銀の滝

古山閣へ戻り、まず温泉へ入る。一回目は一階の大浴場を使用。だれも入っていず、独り占め状態。少々、熱めの湯であるが、湯屋の天井が高く、空気もひんやりとしているため、湯船のなかがとても気持ちがよい。

10・大浴場
いい湯です

翌朝に貸切り風呂へ入った。貸切り風呂は二か所あるが、両方とも招福の間のある三階にある。

11・右の貸切風呂  12・左の貸切風呂
貸切風呂もゆったり

さて、夜の散策する前に夕食をとった。部屋食で高坏膳である。

26・高坏膳の夕食
なんとお膳でお出ましです

夜の街並みをそぞろあるくのがひとつの目的であるので、お神酒はほどほどに食事を愉しむ。

27・尾花沢牛温泉蒸し  28・フカヒレの中華風蒸し
左:尾花沢牛温泉蒸し       右:フカヒレの中華風蒸し

尾花沢牛あり、フカヒレあり、温かな団子汁ありと思った以上の山間の旅館の料理であった。

29・蕪と赤魚の吉野餡かけ  30・鳥団子汁
左:蕪と赤魚の吉野餡かけ          右:鳥団子汁 

丁寧に盛り付けされ、味付けも薄味で、どれもとてもおいしかった。

31・サーモンの塩麹焼き  32・蕎麦まんじゅう
左:サーモンの塩麹焼        右:そばまんじゅう

お腹も満腹、ちょっと風に当たろうと窓を開けると、そこには昼間とは異なった風情の景色がひろがっていた。

9・部屋から
部屋から対岸の伊豆の華を見る

そして、午後八時前、いよいよ大正浪漫の世界へと足を踏み入れる。当夜は雪もなく見通しがよく、これはこれでよい。まだ人通りも少ない温泉街の奥へと歩いてみた。ガス燈に灯がともり、淡い橙色の燭台のように浮かび上がる旅籠が川筋の両側にならんでいる。

15・如月の銀山温泉

遠い昔、どこかで経験したことがあるとても懐かしい光景、添い寝した母が諳(そら)語った昔話の世界のような心やすらぐおだやかな情景である。これを大正浪漫というのもよい。だが、わたしには誰しもが心の奥襞に大切に温め宿らしている童の無垢な魂のような景色、原風景のようにも思えてきた。

17・湯煙りの立ち昇る川筋
湯けむりに浮かぶ銀山温泉

幻想的とひと言でいうのはたやすいが、もっと人間の本源にある剥き出しのやさしさ、思いやりのような、そんなあったかくも産毛のような小世界にいま自分は身を置いている・・・そんな夢を見た。

16・銀山温泉奥からの夜景
銀山温泉の奥から見る

翌朝、障子を開けるとこんんこんと雪が降っていた。今回の雪国の旅で初めての降雪である。

21・翌朝は雪が降っていました
雪が降っていました

二日前はホワイトアウトで外出もままならなかったと仲居さんから訊いていた。それはさすがに勘弁いただきたいが、やはり北国の雪降る情景を目にしたいのは自然な旅人の気持ち。



旅の三日目にして空から雪が舞い落ちてきてくれた。朝食をすませると、早速に雪降る銀山温泉の散策に移った。

22・銀山温泉の雪の朝

湯治客は朝食中か温泉にでも浸かっているのか、朝の温泉街はまだまだ静寂の世界である。

23・雪の能登屋
雪降るなかに能登屋旅館

冬空から舞い散る雪はその景色を小さな物語の世界へとかえてくれる。夢のようなおとぎ話の世界にいるようである。本当に銀山温泉に来てよかった・・・そう思わせる雪景色であった。