蓼科に今年も盛夏がやってきた。
テラスに立つと、高々と伸びた樹々の葉叢の隙間から夏空が虫喰いのように覗いて見える。 天空に降り注ぐ真夏の光線は緑葉という濾過器を脱けて“涼”という光の粒へと拡散、変身する。 高原の天気は移ろいやすい。八ヶ岳の稜線がくっきり見えるのは大気に早朝の冷気が残る午前中に限る。 八ヶ岳の頭上に広がる青空、そこに浮かぶ夏雲・・・爽やかである。雄大な八ヶ岳の姿を眺めて、高原の夏を満喫しようとビーナスラインをドライブした。 ビーナスラインを走る窓外の景色はいつものことながら心安らぐ景観である。窓を開けて眼下に白樺湖を置き去り、車を駆るのも痛快である。頬をたたく高原の風が涼やかである。 高原の道をひたすら登ってゆくと、カーブの先に車山の山容が見えてきた。間近に見る姿は堂々としているが、その緑色の装いとも併せ、いとも優しげである。 そして、ここら辺りからがわたしが一番、大好きなビーナスラインの景観である。 山肌には大きな立木が見えない。そのベルベットのような触感を持ったなだらかな高原の景色がつづくのである。 都会の喧騒に疲れた目に優しい緑の絹衣をまとう真夏の高原・・・ 霧ヶ峰を遠望する。遮るものが何一つない天空の景色である。 この素晴らしい景色を見ると、いつも思う。
自然の造形は美しい。
だが、今の時代、この造形美の陰で必死にそれを守り通そうと努力している多くの人たちがいることを決して忘れてはいけないと・・・