国会は言うまでもないが、日本国憲法第41条に定めるように、「国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関である」。


そして憲法第43条で、「両議院は、全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。2 両議院の議員の定数は、法律でこれを定める」、第47条では「選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める」とある。


2011225日、本日をもって、「国権の最高機関であつて、国の唯一の立法機関」が自ら立法した「衆議院議員選挙区画定審議会設置法」(1994年)を犯すことになった。


同法は小選挙区制導入に際し立法された政治改革四法のひとつである。

衆議院の小選挙区区割り法式は、まず衆議院議員選挙区画定審議会にて審議される。選挙区割りは国民の一票の格差を決定し、政治家の当落を左右する重要な問題である。


内閣府に置かれる「衆議院議員選挙区画定審議会(以下審議会)」は、「国会議員以外の者であって、識見が高く、かつ、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し公正な判断をすることができる」7名の内閣総理大臣に任命された委員で組織される(同法第6条)。


そして、審議会は、「各選挙区の人口の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数(一票の格差)二以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならない」(第3条)と定められた改定案の作成基準を満たさなくなった場合には、「衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告する」ことが求められている(同法第2条)。


さらに、その改定案の勧告は、「国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から一年以内に行うもの」とされ、平成22年国勢調査の「人口速報集計結果」が公表された平成23年2月25日から1年後、すなわち本日が、その勧告期限となる。


小選挙区の議員定数の改定案の勧告がなされぬままこの状況を放置することは、「国民代表である国会の議決によって成文法を定める」立場にある立法府自らが「法」を無視するものであり、その行為は自己否定そのもので、法治国家の崩壊を意味するものである。


加えて、2011323日の最高裁大法廷において、第45回衆議院議員総選挙時(20098月)、「(各都道府県に1議席を割り振る)1人別枠方式に係る部分は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っており、同基準に従って改定された本件区割規定の定める本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたものである」と違憲判決を下している。


単なる「05減」ということではなく、「1人別枠方式」の選挙制度の在り方そのものの見直しを迫っているのである。


判決主文の「理由」のなかで、その重要なる部分を下に記す。

国民の意思を適正に反映する選挙制度は,民主政治の基盤である。変化の著しい社会の中で,投票価値の平等という憲法上の要請に応えつつ,これを実現していくことは容易なことではなく,そのために立法府には幅広い裁量が認められている。しかし,1人別枠方式は,衆議院議員の選挙制度に関して戦後初めての抜本的改正を行うという経緯の下に,一定の限られた時間の中でその合理性が認められるものであり,その経緯を離れてこれを見るときは,投票価値の平等という憲法の要求するところとは相容れないものといわざるを得ない。衆議院は,その権能,議員の任期及び解散制度の存在等に鑑み,常に的確に国民の意思を反映するものであることが求められており,選挙における投票価値の平等についてもより厳格な要請があるものといわなければならない。したがって,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に,できるだけ速やかに本件区割基準中の1人別枠方式を廃止し,区画審設置法3条1項の趣旨に沿って本件区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があるところである。


さらに、宮川光治裁判官の反対意見の今後,国会が速やかに1人別枠方式を廃止し,選挙権の平等にかなう立法的措置を講じない場合には,将来提起された選挙無効請求事件において,当該選挙区の結果について無効とすることがあり得ることを付言すべきである」とする厳しい付言に対し、聴く耳持たぬといった国会の姿勢は、法に拠る民主主義そのものを根底から否定するものであり、決して許されるべきものではない。


その一方で、区割り規定改正案を策定、勧告する「衆議院議員選挙区画定審議会」そのものの位置付けが曖昧であることも、一票の格差是正がスピーディーに進まぬ大きな要因となっているともいえる。


すなわち、「衆議院議員選挙区画定審議会設置法および施行令」を読む限り、当審議会は、選挙区の状況が改定基準を満たさぬ状態に陥った場合は、自発的に会長が会議を招集し、「内閣府大臣官房企画調整課において総務省自治行政局選挙部選挙課の協力を得て」、投票価値の平等を担保すべく選挙区の区割規定改正案を作成、内閣総理大臣に勧告するとなっている。そして総理大臣は勧告を国会に報告しなければならぬ(第5条)と定められている。


どうも一義的には、まず会長(村松岐夫(ミチオ)京都大学名誉教授)が招集し、改定案を作成、総理大臣へ勧告しなければ、事は進まぬことになっている。国会議員の生殺与奪権を握る怖い審議会とも読み取れるのである。


その審議会の委員は、設置法の第6条・組織において、内閣府に置かれる「衆議院議員選挙区画定審議会(以下審議会)」は、「国会議員以外の者であって、識見が高く、かつ、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し公正な判断をすることができる」7名の内閣総理大臣に任命された委員で組織されるとある。なお、現在の委員の任期は平成21411日〜平成26410日までの5年間である。


つまり事の性質上、立法府構成員たる議員自らの利害に関することゆえ、選挙区割りの見直し案は、「識見が高く、かつ、公正な判断ができる」議員以外の人であるとするものである。


その意味するところは分かるが、一票の格差が生じた際に選挙区の区割り改定案を作成せぬ場合の責任の所在が、これではよく分からぬのが正直なところである。


実際に平成22年国勢調査の「人口速報集計結果」が公表された平成23225日、さらには同年323日の最高裁大法廷で違憲判決が下されて以降、この「選挙区画定審議会」が開催されたのは、平成23年の3月1日と28日のわずかに2回のみで、7名の委員が再任された平成21年4月11日からでもたったの6回、年間に2回ずつの開催にとどまっているのである。


こんな開催状況では、素案をつくるなどどだい無理という話である。


今回のメディア報道でも与野党協議の折り合いがつかずに勧告に至らず、「違法状態へ」とされているが、立法府たる国会が定めた法律では、どうも「衆議院議員選挙区画定審議会」の重大なサボタージュということになってしまうのだが、本当にわが国の政治は一体、法律に基づいて運営されているのか。どこかの国が人治主義だといって揶揄するのも、これではどうかと思ってしまう。人治ならまだしもよい。それすらしないアナーキー状態ともいえるいまの国政なのだから。