以前からメディアが民主党の云うが儘に「社会保障と税の一体改革」という言葉を、あたかも実態があるかのように使用し続けるのが、どうもわたしは気にくわない。


民主党が云う「社会保障と税の一体改革」とは何のことはない、消費税率の5%アップ、すなわち増税案のことのみを意味しているだけなのに、「一体改革」という言葉は、あたかも「2009マニフェスト」で約束した社会保障抜本改革へ向けての具体的行程表、それを支える詳細な数字・試算が、増税負担と表裏一体で提示されているかのような錯覚を覚えさせる。


民主党が一体改革と云うのであれば、それに値する内容があって初めてその言葉は使用されるべきであり、権力のチェック機能を果たすべきメディアが、増税案に関する一連の動きを報じる時に、決まって「社会保障と税の一体改革」という民主党の標語・願望を批判なく使用していることに、わたしは常々大きな違和感を覚えている。


5%の増税分の使途に限ってもその説明はフラフラと定まらず、「社会保障支出に限って消費税増税分は使用する」と語って来た民主党の大原則もいとも簡単に捨て去ったような当初の説明に、わたしも唖然としたものである。


そして、そもそも消費税および社会保障改革について民主党は「2009マニフェスト」でどう約束したのかを、もう一度、思い起こしておく必要がある。


これは何も揚げ足取りをするものではなく、20099月に発足しすでに二年半が経とうとする民主党政権下で、彼らが標榜(ヒョウボウ)した社会保障改革が具体的にどう制度設計が進められて来ているのか、どのような修正が図られようとしているのか等々、「社会保障と税の一体改革」という言葉が各種メディアで日常的に氾濫している状況のなか、少し頭を整理しておく必要があると考えたからである。


“消費税”について、2009年の「民主党政策集・INDEX2009」では、国民に次のように約束している。


消費税に対する国民の信頼を得るために、その税収を決して財政赤字の穴埋めには使わないということを約束した上で、国民に確実に還元することになる社会保障以外に充てないことを法律上も会計上も明確にします。


具体的には、現行の税率5%を維持し、税収全額相当分を年金財源に充当します。将来的には、すべての国民に対して一定程度の年金を保障する「最低保障年金」や国民皆保険を担保する「医療費」など、最低限のセーフティネットを確実に提供するための財源とします。


税率については、社会保障目的税化やその使途である基礎的社会保障制度の抜本的な改革が検討の前提となります。その上で、引き上げ幅や使途を明らかにして国民の審判を受け、具体化します。・・・」と、


“社会保障制度の抜本的改革”が消費税率アップの前提であり、その抜本策の具体的内容と消費税率の引上げ幅をセットとして国民に提示し、国民の審判を受けたのちに具体化する、すなわち、法案を提示して解散を打ち、総選挙で国民の判断を仰ぐと約束している。


その「社会保障制度の抜本的改革」の目玉としてマニフェストで麗々しく謳ったのが、


O  年金制度を一元化し、月額7万円の最低保障年金を実現します

O  後期高齢者医療制度の廃止と医療保険の一元化をします


の大きく二つの一元化政策である。


その目玉政策の具体的制度設計の提示なしに、増税案のみの審議を優先させることなど、あってはならぬのである。


2年半たった現在、社会保障改革の具体的審議は国会でなされていないし、それ以前に民主党内での具体的制度設計の議論や法案化へ向けた地道な活動の姿もまったく見えぬのだから、政治生命をかけて消費税増税を成し遂げると野田首相が悲壮感を漂わせようと、国民はしらけるしかないし、マニフェストでは具体的約束もしていない“5%引上げ”のみが突然、降って湧いたように法案提出されるというのでは、それで国民が納得するはずがないのは当然の道理である。


INDEX2009」で「公平な新しい年金制度を創る」として、次のように国民に約束した。


「危機的状況にある現行の年金制度を公平で分かりやすい制度に改め、年金に対する国民の信頼を確保するため、以下を骨格とする年金制度創設のための法律を2013年までに成立させます。

(1)すべての人が同じ年金制度に加入し、職業を移動しても面倒な手続きが不要となるように、年金制度を例外なく一元化する

(2)すべての人が「所得が同じなら、同じ保険料」を負担し、納めた保険料を基に受給額を計算する「所得比例年金」を創設する。これにより納めた保険料は必ず返ってくる制度として、年金制度への信頼を確保する

(3)消費税を財源とする「最低保障年金」を創設し、すべての人が7万円以上の年金を受け取れるようにすることで、誰もが最低限の年金を受給でき、安心して高齢期を迎えられる制度にする。「所得比例年金」を一定額以上受給できる人には「最低保障年金」を減額する

(4)消費税5%税収相当分を全額「最低保障年金」の財源として投入し、年金財政を安定させる」と。


消費税5%税収相当部分は全額「最低保障年金」の財源として投入すると約束しているのである。


増税の使途がフラフラしていること自体が、何も社会保障制度の抜本改革案が民主党内および政府に存在しないことを明らかに物語っているのである。


またそんな不実な政党の「社会保障と税の一体改革」の標語を、批判精神もなく安易に使用する大手メディアは、民主党があたかも具体的制度案があるかのように国民を欺き洗脳することに、手を貸しているのだと言わざるを得ぬのである。