「綸言(りんげん)汗のごとし」と対極にある議事録作成をしない民主党政権の背任(2012.1.31)
1月25日、民主、自民、公明3党が一般職の非現業国家公務員(以下、国家公務員給与という)の削減について、大筋で合意した。その内容といえば、2011年度の人事院勧告(平均0・23%減)に基づく給与引き下げを実施したうえで、今後2年間は平均7・8%を上乗せし削減するというものである。
逆に言えば、2012年4月から2014年3月までの2年間は平均8・03%の削減はするが、2014年4月からは給与削減上乗せ分の7・8%を解消し、人事院勧告の0・23%の削減に戻すという一種のマヤカシに近い。
2011年度の人事院勧告は、2012年の一般職の非現業国家公務員の平均年収を、638・5万円(2011年実績)から637万円へ年間でわずかに1万5千円削減(マイナス0・23%)とした。月例給ベースでは396,824円(前年度マイナス899円、比率でマイナス0.23%)となる。その平均年齢は42・3歳である。
つまり今後2年間の2012、13年度の人事院勧告がプラス・マイナスゼロの現状並みと仮定した場合、2014年4月からは2011年度の人事院勧告の平均年収637万円(2012年人事院勧告ベース)に復するというのである。国民を馬鹿にするのいい加減にして欲しい。
その一方で民間給与の実態はどうかということであるが、厚労省が毎年行っている「国民生活基礎調査の概況」の平成22年版によると、平成21年(2009年)の一世帯当りの平均所得金額は、549・6万円となっている。ただ、その平均所得は65歳以上の高齢者世帯(307・9万円)、母子世帯(262・6万円)および民間より高額となっている公務員世帯も含まれているため、いわゆる純粋な民間の勤労一世帯当りの平均所得はこれよりかなり少ない金額となる。
また一世帯当り所得は配偶者等の所得(パート収入・正社員給与)も含んだ数字であり、公務員給与と比較するに当っては、世帯主個人のみの所得と比較する必要がある。
そこで、国税庁が毎年調査をしている「民間給与実態統計調査」(2011.9公表)の2010年実績の数字を参考に表示すると、民間の年間平均給与(給料・手当+賞与)は412・0万円(男性507・4万円・女性269・3万円)となっている。平均年齢は44・7歳と公務員給与の平均年齢の42・3歳より2・4歳高齢となっている。
これは1人〜9人の零細事業所から5000人以上の大企業まで8層ごとに、ある摘出率により抽出した26・8万人の標本給与所得者を調査対象としたものである。
人事院勧告で比較される民間給与の実地調査はその対象数が「約43万人」と、国税庁調査のサンプル数の「約27万人」を超えるものの、国税庁は事業所の規模を1人以上から大企業までの全てを網羅するのに対し、人事院勧告は「企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の事業所」と、企業数の多くを占める零細企業の給与実態がまったく反映されない仕組みとなっている。
このことは従来からよく指摘されてきたことだが、具体的にどのような影響が勧告の数字に表れているのかを説明したものはわたしは目にしていない。そこで、ここで国税庁調査の数字を使い、影響を分析してみる。
国税庁調査では、2010年の給与所得者数総合計5,415万人(100%)のうち、「1-9名の事業所の給与所得者数総数972万人(18.0%)」、「10-29名の事業所の給与所得者数総数777万人(14.3%)」 、「30-99名の事業所の給与所得者数総数881万人(16.3%)」とある。30人未満の事業所規模の合計だけで32・3%と1/3を占めている。
また中小企業庁の公表する「小規模企業の従業員数」は総従業員数4013万人の23%の約929万人とされている。ここにいう小規模企業の定義は製造業・その他で従業員20人以下、商業・サービス業5人以下の企業となっている。その小規模企業に就業する勤労者だけで全勤労者の23%を占めている。
以上の二つの統計調査からだけでも、人事院勧告のベースとなる「企業規模50人以上かつ事業所規模50人以上の事業所」に雇用される対象勤労者は、おそらく6割程度(零細企業従業員は少なくとも3割以上4割強と推定)の給与水準の高い部類の勤労者を民間給与のサンプルの母集団としていることになる。
そして国税庁の「民間給与実態統計調査」で、さらにその詳細内訳をみると、年間給与額は事業所規模10人未満は335・7万円(平均年齢50・3歳)、10-29人事業所規模で399・1万円(同46・2歳)、30-99人事業所規模は387・0万円(同44・1歳)と、いわゆる零細企業の給与水準が実際にも、全民間給与平均の412・0万円より低いことがわかる。
因みに100-499人が415・6万円(同42・9歳)、500-999人が463・4万円(同41.9歳)、1000-4999人が480・4万円(同41・9歳)、5000人以上が489・5万円(同42・2歳)であり、零細企業の給与が低いことは明らかである。
さらに、零細企業従業員の平均所得に対応する平均年齢が、従業員500人以上の大企業の従業員より10歳ほど高齢であることも、民間企業の間でも、企業規模別の給与格差が表面的な平均給与の差以上に、実態は、より大きなものであることも理解しておく必要がある。
そうした民間企業給与の実態を知ったうえで、公務員給与の人事院勧告を眺めると、給与決定の仕組みが経済の実態に適っていないと言わざるを得ない。そうした計算式で長年やっていれば、給与の官民格差が生じてゆくのは当然であり、零細企業によりしわ寄せのゆく現在の厳しい経済情勢に鑑みれば、消費税率アップ云々の前に、公務員給与水準の在り方そのものが議論されて然るべきと考える。
そう考えて来ると、現在、民主党が用意している2015年までに消費税率を現在の5%から10%へ引き上げる増税法案は、もちろん増税は将来にわたるものであり、公務員給与を2年間だけ一時的に7・8%に削減することで、自らも痛みを分かち合うのだと云うのは、先述したそもそもの官民格差(官637万円:民412万円)の是正を行なったうえにさらに「痛み」をどういう形で具体化するのかが、当然、求められるべきである。
ましてや2年間の一時的給与削減を理由に、労使交渉で給与を決められる労働協約締結権を付与することなど詐欺的なマヤカシであり、公務員制度改革関連法案の本質をわれわれ国民はもっと詳しく知っておくべきである。
民主党が支持母体である自治労連という身内に本気で痛みを強いさせることが出来るのだろうか。この給与の2年間削減だけで労働基本権の一つを与えようとしていることを見るだけで、とても難しいと断じざるを得ない。
民主党の本質が口先政党ということがわかった今、国会議員の定数削減、公務員給与の2割削減がなされぬ限り、国民にだけ痛みをしわ寄せする消費税増税は決して有り得ぬことを、野田政権はよくよく分かった上で、今国会の運営を進めてもらいたい。
強引に消費税増税案と労働協約締結権付与の公務員制度関連法案を通すつもりであるのなら、その前に国民にその信を問う、解散、総選挙を行なうのが、民主主義の王道である。何しろ、これだけ国民との約束と声高に叫んだマニフェストをことごとく反故にしてゆく政治に国民はほとほと嫌気がさし、不信の塊になっているのだから。