価格比較サイト大手の(株)カカクコム(本社:東京都・資本金:78500万円・設立:199712)が運営するWEB SITE“食べログ”での「やらせ業者」によるランキング操作は、匿名性を不可欠要素とするネット社会において、起こるべくして起きた事件である。

そして、やらせ業者の問題に関心が偏り過ぎで、サイト運営業者の責任やトラブル対応の自覚欠如の問題があまり語られていないのは不満である。

わたしも行きつけの店がない場所でお店を探す時に、よく“食べログ”を閲覧する。その場合、わたしはお店の点数で決めるというより、口コミの数の多寡やその内容に注意して、そのお店を利用するか否かを選択する。

口コミがいわゆる“さくら”というケースも十分、考えられるからだ。巧妙な文章術を弄した場合はなかなかその真偽は見極めにくいが、褒めすぎて馬脚をあらわしているケースだとか、常連を誇示したくて書き込みをしているケースなども、一応、贔屓の引き倒し的な中立性の欠如から選択材料の意見からは除外している。

また、逆にやたらと攻撃的にお店の欠点をあげつらうケースもちょっと脇に置く。ライバル店の贔屓客やお店そのものが誰かを介して書かせているケースも考えられるからだ。

だったら、何を参考にするのかということだが、素直な感想というものには、文章にそれなりの軽さというか軽妙さがある。

さらに、品性とまでは言い過ぎだが下品でないという意味で、お店の評価が要領よくまとめられているものが、リアリティがあり、信頼性の高いものと感じている。

そうした程度でわたしは“食べログ”の点数、口コミを参考にしている。

ただ、今回の事件はやらせ業者側の問題だけが強調されているが、サイト運営事業者としてのカカクコムの責任についてはほとんど言及がなされていない点で不満である。

同社は20107月に佐賀市の飲食店経営者からいわゆる「食べログ訴訟」を起されている。

訴状内容は「食べログには3月、店のメニューの写真などが利用客から投稿、掲載されたが、店に連絡はなかった。それ以降、店の外装やメニューは変わったが内容は更新されず、客に誤解を与えるとして削除を4回要請したものの拒否された」というものである。

当初、カカクコムは「内容は投稿者が食事した当時の状況であり違法性はない。『最新の内容とは異なる場合がある』との注意書きもしている」と反論、全面的に争う姿勢を見せ、913日に佐賀地裁で第一回口頭弁論が開かれた。

しかし、20111月になり、両者は15日までに、カカクコムが店の情報を削除し、飲食店経営者が訴訟を取り下げることで合意、男性は訴えを取り下げ、口コミなどもサイトから削除された。この合意には金銭の支払いもなされたと言われているが、その額や詳しい内容については両者とも公表していないため不詳である。

現在。“食べログ”の月間利用者数は3201万人(201111月現在)で、登録されている飲食店も約67万店にのぼっているという。新聞最大手の読売新聞の発行部数が1000万部というのと比較しても、その影響は決して小さくなく、もはや公器ともいうべき情報媒体となっている。

そうした社会性や公共財としての自覚がカカクコムに欠如していることが、佐賀市の口コミ削除の拒絶対応や今回の事件のそもそも根源にあるのではないかと考える。

それを如実に語っているのが、この15日にカカクコムが公表した「本日の報道内容について」と題するプレスリリースのなかにある「不正業者発覚の経緯、発覚範囲 について」の内容である。

そこには、「飲食店より不正業者から食べログへの口コミ代行等の営業を受けたとの通報を、20111月頃にいただき、その際に業者が示した営業資料等に基づき独自調査を行い、不正業者の存在を把握しました。その数は昨年12月時点で延べ39社となっております」と書かれている。

この「やらせ業者」の問題は表面的には既に1年前に発覚していたにも拘わらず、一年もの間、実際には何の対応策も講じず、放置していたことになる。

そして、ここにきてバタバタと事態が急展開したのは、「月島もんじゃ振興会協同組合」の健全な競争を維持するための自衛的行動がそのきっかけとなった。あくまでも他力によるものである。

月島商店街
月島商店街

要は201112月、月島のもんじゃ焼き店約60店が加盟する「月島もんじゃ振興会協同組合」が、昨年の秋以降、行列をなすほどに急激に客足をのばした複数の加盟店の調査を行なった。その内2店舗がやらせ業者に“食べログへ”の書き込み依頼をしていたことを認めた。そこで同組合がやらせ業者との契約を解除するよう求め問題が大きくなったことで、カカクコムも地域興しの成功例として有名な“月島もんじゃ焼き”で事を大きくしてはとの判断が働いたとしか考えようがないのである。

カカクコムの利用規約には、「4.食べログの利用について」の項番(4)「口コミの著作権等」の[2]において、「お客様が食べログに口コミの投稿を行った時点で、当該口コミの国内外における複製、公衆送信、頒布、翻訳・翻案等、著作権法上の権利(当社から第三者に対する再使用許諾権を含みます。)を、お客様が当社に対して無償で利用することを許諾したものとしますと、口コミの著作権は当社に帰属するとある。

また、その項番[7]において「当社または第三者がお客様の口コミを利用したことによってお客様または第三者が受けた損害については、当社では一切の補償をいたしません。また、口コミを投稿した本人による当該口コミの利用等本規約が特に認めた場合を除き、お客様が食べログに掲載されている口コミを利用して利益を得た場合には、当社はその利益相当額の金員を請求できる権利を有するものとします」と損害が発生した時は投稿者、利益が出た場合はカカクコムと、まぁ、同社に都合のよいことばかりが書かれている。

口コミや写真投稿の著作権までを自社が有するというのであれば、そこから発生する損害賠償は自社が責任を持つという双務的契約でなければ、あまりに一方的過ぎて公平を失する。大組織対個人という視点でもおかしな契約といえる。

また、投稿者の登録に当っても現在のメールアドレス・郵便番号・性別・生年月日のみ登録というのではなく、属性等の項目を増やし相応の審査が求められるのではないか。その意味でも実名で登録させ、本人確認を免許書等ですることも必要ではなかろうか。

投稿はこれまでのようにニックネームでするとしても、実名がサイト運営者に把握されているということで、そこには不正を抑止し、さくら的書き込みやいわれない誹謗中傷行為もしにくい心理状態が働くのではないかと考える。

“食べログ”は思想信条の表現の場ではなく、あくまでも飲食情報を収集するサイトである。やらせ業者の暗躍を許すのであれば、このネット情報サイトは実名登録、ニックネーム投稿というので問題はないとわたしは考える。