東屋は平成3年に営業を開始したというから、すでに20年ほどこの杜鵑峡(とけんきょう)と呼ばれる名勝の地にある。杜鵑峡は茅野市の「名勝」文化財にも指定されている。

 

東屋全貌
東屋外観 

 

 東屋の横には杜鵑峡の階段状の段差を滝之湯川が流れ落ちてくる。この日は前日の夜の雨の影響か、水量も多く、瀬音が東屋の室内に心地良いマイナス・イオンの律動と旋律を響かせる。

 

横を流れる滝之湯川
岩の段差を下る滝之湯が窓の真下を流れる

滝之湯川
京都貴船の川床より風情はあるかも・・・ 

 

 そして緑の木々に覆われた渓谷一帯には、「ひぐらし蝉」のカナカナという物哀しい啼き声が響き渡っている。

 

夏山の楢(なら)の葉そよぎ吹く風に入日すずしき蜩(ひぐらし)のこゑ

(後鳥羽院「続古今集

 

 そんな素晴らしい自然の中にこの東屋はあった。

 

 20年ほど前、わたしたち家族は、東屋の斜め前にある橋の脇から降りて、まだ小学生であった息子と渓流釣りの物まねみたいなことをしたことがあった。

 

 その時、すでに東屋は現在と同じ佇まいでお店を営んでいた。当時はおそらく釣り客を相手とした宿泊処も兼ねていた(現在、宿泊業は行なっていない)はずである。

 

 一見すると、ご主人には大変失礼であったが、釣り宿兼居酒屋風の店であったため、リゾートの蓼科には似つかわしくないお店として、一顧だにしなかったというのが、正直なところである。

 

 しかし、こちらも年齢を重ね、洒落たばかりの店も疲れたこともあって、ここ数年、家内とこの前を通るたびに、「一度入ってみたいね」と言いながら、とうとうこの日までかかってしまった。

 

 そしてびっくりした。建物は総檜造りで諏訪の宮大工に頼んだというりっぱな和風建築であった。店内は畳席で、テーブルはすべて囲炉裏形式であった。自在鉤と魚の横木が風情を添える。

 

大人数も大丈夫
すべて畳席で囲炉裏形式

囲炉裏を囲んでの食事
川沿いの席は自在鉤のある囲炉裏。ここで食べました。 

 

その囲炉裏に順番に鮎、山女(やまめ)、岩魚の渓流魚料理が運ばれて来る。家族三人でそれぞれをシェアして食べた。おいしかった!!

 

鮎の塩焼き
鮎の塩焼き

岩魚の塩焼き
岩魚の塩焼き

ヤマメの唐揚げ
ちょっと毛色の変わった山女(やまめ)の唐揚 

 

 そして、わたしは、ひそかに狙っていた「岩魚の骨酒」を、とうとう、いただきました。熱燗の辛口の日本酒に塩焼きの岩魚がそのまま横たわって出てきたのには、びっくり。初めての経験で、「熱いので気をつけて」とのご主人の声に、おそるおそる唇をこの大ぶりの皿に近付けた。香ばしい匂いと塩味がほどよく混ざった酒は、まさに甘露であった。最初、二合の日本酒に浸けられてきたが、それを飲み干し、接ぎ酒を一合お願いして、いい気分になって帰宅した。

 

岩魚の骨酒
岩魚の骨酒

岩魚めし(¥1680)
最後に「岩魚めし」、ちょっと、食べ過ぎ・・・
 

 

 東屋は事前にお願いするとホテルや別荘まで送り迎えをしてくれるということで、仲間と遊びにゆくときは、この手を使わない手はないと思った。

 

 また、岩魚の刺身料理(3、4人前から)は事前予約が必要とのことで、今回はありつけなかったが、次は岩魚の刺身で一献といきたいものだ。