NHKスペシャル「職業“詐欺”」に疑問あり

 

 2月9日放映のいわゆるNスペ、「職業“詐欺”」を観た。その副題には「増殖する若者犯罪グループ」とあった。振り込め詐欺の実行犯に番組スタッフが密着し、詐欺電話をかけまくるアジトのマンション一室の映像や犯罪の下請けをする人間がたむろする場所などが紹介される。そして組織のリーダーとおぼしき人物や騙(だま)し取った現金をATMから引き出す「出し子」と呼ばれる下働きの若者らにも接触し、生々しい話を聞くドキュメンタリー番組であった。

 

 NHKスペシャルHPの当該番組の紹介には、「若者たちはなぜ詐欺に走ったのか。その軌跡を徹底的に取材し辿っていくことによって、日本社会の抱えるいびつな病理を浮かび上がらせる」と、その制作目的が書かれていた。

 

 しかし、番組を見終わって「日本社会の抱えるいびつな病理」が浮かび上がってきたかというと、「No!」である。逆にこの程度の若者たちですら、こんなにやすやすと詐欺を成功させ、その結果として高級マンションに居住し、高級車を乗り回し、若い女性にもてるのか・・・、「そんなら、俺も・・・」と思う人も出て来るのではと、心配になったというのが正直なところである。詐欺の手口を「金こそ全て」の視点から描いた映像は、振り込め詐欺が罪悪感を覚えることなく出来るボロいビジネスのようなものと映ったのは、わたしだけであろうか。

 

 そして犯人グループにここまで密着取材をして、それで見逃すというのも、社会正義の観点からどうも納得がいきにくいと感じたものである。このグループのリーダーとおぼしき人物は番組のなかで何の反省も見せず、その上、今後、犯罪に手を染めぬとも言及しなかった。これからも振り込め詐欺を「騙される方がバカ」と嘯(うそぶ)きながら続けてゆくのだろうと感じさせられた。

 

 今後のこのグループによる犯罪発生つまり、老後の資金を騙し取られ困窮のどん底に落ち込む一般市民の被害が十分に予想される事態にも拘わらず、それを見逃すというのはどういう「社会正義」感なのであろうか。NHKはこの犯罪グループから今後被害に遭おうであろう人々の不幸の「総和」より、この番組が摘出する「日本社会の病理」に視聴者が気づき、何らかの犯罪防止につながる「総和」の方が大きいと考えたのだろう。そうでなければ放映などせぬはずである。

 

しかしわたしには、NHKがこの犯人グループと接触し見逃してまでしてこの番組を放映する意義、公共の利益に資するその方が大きいと考える根拠が、どうしても見出し難かったのである。特にこの場合、再犯の可能性が高いだけに、NHKの姿勢・考え方はかなり無理筋であると思えて仕方がないのである。

 

 番組作成にあたりプロデューサーはじめ番組に係わったスタッフの味わった身の危険や苦労が並々でなかったのであろうことは、番組を視聴しているこの自分にも十分伝わってきた。

 

 しかし、当該番組は犯人グループそれもリーダーとおぼしき人物まで辿り着き、人脈・ルート、その構造まで詳しく解明して見せた。単純に、いちテレビ局がグループの全容を把握できるのであれば、なぜ専門の警察による犯罪グループトップを含めた大規模な摘発が進まないのか不思議でならない。そうしたルート解明の手づるがあるのであれば、テレビ局と言えども社会を構成する重要な一員である、それこそ善良なる社会構成員としての義務、すなわち社会正義を打ち立てるために別の選択肢があったのではないか。

 

番組制作を中止し、犯罪グループに到達した手法・手づるを警察当局へ伝えるという判断はなかったのだろうか。それは裏でこっそりやっているのだが番組中では流せないというのであれば、この意見はそれこそ聞き流してもらうしかない。

 

 メディアは探偵でもましてや捜査当局にもあらず、事件の核心は何かを国民に伝えるのが使命と言うのかも知れぬ。そして、常套手段と言おうか耳たこの「報道の自由」、「表現の自由」、「取材元の守秘義務」そして犯罪抑止等々、メディアがこうした犯人と接触する「密着取材ルポ」のケースでよく語られる「メディア魂」を述べ立てるのかも知れぬ。

 

 しかしやはり、このNスペは番組放映の意義において、どうも先述の「総和」の大小でいうと、犯罪防止や社会の病理を摘出と言っても、どう具体的にこれが犯罪抑止や被害防止につながるのか、わたしには最後まで理解できなかったのである。

 

 逆に冒頭に述べたように振り込め詐欺の物理的・心理的負担の軽さが強調され過ぎて、思慮の足りぬ若者の犯罪を助長させてしまう危険性の方をより強く感じ、NHKの報道基準の線引きに大きな「疑問」を抱いたのである。

 

 ぜひ、NHKにはこの意見に対する見解をどこかの時点で、分かりやすくご説明願いたいと考えている。

 

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