落語家の林家正蔵(本名海老名泰孝)がこの3年間でなんと12000万円の所得隠しをしていたとして、東京国税局から重加算税を含めて約4500万円の追徴課税をされ、本人も修正申告に応じたという。

 

 重加算税は国税通則法第68条で「(過少申告や無申告をした場合に)納税者がその国税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実の全部又は一部を隠ぺいし、又は仮装し、その隠ぺいし、又は仮装したところに基づき納税申告書を提出していたとき」に過少申告加算税や無申告加算税に上乗せして課されると規定している。単純なミスや不注意ではなく意図的に所得を隠蔽、またごまかした場合に文字通り過少申告加算税などにさらに「重ねて」加算される懲罰的税金である。つまり重加算税を課されることは、納税者としてきわめて悪質であったということを意味しており、そして修正申告に応じたということは本人もその悪質性を認めたということである。

 

落語家がいまでも長屋住まいをしているとは思わぬが、いくらなんでもこの所得隠しの金額は庶民感覚を超えている。九代目「正蔵」を襲名時のご祝儀などの申告漏れ、いや、所得隠しと報道されたが、めでたいはずのご祝儀が見事に泥にまみれてしまった。

 

林家正蔵は16日の記者会見で「父親の代からいくら使ったとか、細かいことは、大まかにした方がよいという古いしきたりがあった。(中略)ご心配をかけて申し訳ない」と述べたと伝えられた。祝儀袋を地下の倉庫に隠すことが、名門?海老名家では「古いしきたり」というものなのであろうか。

 

ただでさえクロヨン、トウゴウサンピンといわれるように給与所得者と事業所得者や農業所得者等との税負担の公平性が問われてきて久しいが、隣りの熊さん、八さんを語る落語家が脱税しかも一億円を超える所得隠しを行なった。脱税報道を聴いて何か裏切られたような気分になったのは、人生の機微を上質の笑いにくるみ伝えるはずの落語家、そして庶民の側にいてこそ成り立つはずの芸人がこうした罪を犯したことへの憤りだったのかも知れない。

 

「ご心配をかけて申し訳ない」と発した言葉が、林家正蔵という男が「脱税」という大罪を犯した「罪の意識」を微塵も持ち合わせていないことをいみじくも露呈してしまったと言える。誰も罪を犯したあなたのことなど「心配」などしていないし、するはずもない。「心配」されていると能天気に勘違いしている姑息な男に対して、ただ本気で怒っているだけである。そんな性根の人間に人生の機微など語れようはずもないし、林家正蔵という男を落語家とみなしていた自分に腹を立てているだけである。

 

 三平師匠の「奥さん、どうもすいません!」では、当然だがすまぬ話であり、「もう大変なんですから」という重大な罪を犯してしまったことを正蔵は心底、自覚すべきであるし、そのうえで改めて謝罪すべきである。