環境省は413日、「平成17年4月に閣議決定された京都議定書目標達成計画において、国内対策に最大限努力しても約束達成に不足する差分(基準年総排出量比1.6%)について、補足性の原則を踏まえつつ京都メカニズムを活用」し、「約638万トン(二酸化炭素換算)のクレジット取得契約を締結」したと発表した。

 

 

「地球温暖化対策推進法」において、京都議定書発効の際に具体的な削減「目標達成計画」を定めることとされており、平成172月の議定書発効を受け同年4月に「京都議定書目標達成計画」が閣議決定された。今回の環境省の発表は、「基準年排出量のマイナス6%」を達成するための必要な措置のひとつとして同計画で定められている「京都メカニズム」を活用したものである。

 

「京都メカニズム」とは、他国に投資してその国の温室効果ガスを削減すれば、その削減した量を自国の排出量に加算できるなどとする仕組みであり、自国が実際に温室効果ガスを削減することとは本質的に性質の異なるものである。具体的には先進国間で排出量枠のやり取りを行なう「排出量取引」「共同実施」と、先進国が途上国において実施された温室効果ガスの排出削減事業から生じた削減分を枠として獲得できる「クリーン開発メカニズム(CDM)」の三つの方式が定められている。

 

 その三つの方式のうち先進国間で行われる「排出量取引」「共同実施」の二つは、温室効果ガスの排出量の総枠は二国間で排出権のやり取りがあっても不変であるのに対し、途上国と行なうCDMは先進国に加算される排出枠分だけ温室効果ガスが全体として増加するという問題を抱えている。

 

 今回、日本が「約638万トン(二酸化炭素換算)のクレジット取得契約を締結」したのは、まさにインドネシアやタンザニア、インド、中国といった途上国を相手にしたCDMである。途上国に技術援助を行ない排出量を削減すること自体に意義は認められる。しかしその削減分を日本が使用するのであれば、地球環境をこれ以上悪化させないことにはなるが、異常気象等温暖化の影響が現実のものとなっている現状を改善する、すなわち温室効果ガスの絶対量を減らすことにはならないのである。

 

温室効果ガス排出量の絶対量を減らしてゆかねばならぬ切所にきている現在、「札束」によって自国の目標を達成したと胸を張ることに何の意味も見出すことはできない。先進国はこれまでの生活様式の見直しといった不自由さを甘受するなど自らの痛みを伴う排出量削減を行なったうえで、途上国に対しては温室効果ガスの排出量削減技術を積極的に移転し、地球全体として温暖化効果ガスの排出量を削減し、温暖化防止を早急に進めてゆかねばならない。それがこれまで科学文明という名のもとに自らの生活を目一杯、エンジョイしてきた先進国の原罪を償うことであり、義務であると考える。

 

 温暖化がこれ以上進んでゆきどうしようもなくなった際に、地球環境悪化を「札束」でいざ解決しようとしてもできぬ相談であることは当然である。ましてや魔法使いでもいないかぎり、竹帚(ほうき)で「ホイッ!」と地球上から余分なガスを掃き出してくれるものはだれもいないのである。

 

 今回のCDMは「マイナス6%」の目標達成の手段として利用されたが、決して地球温暖化の改善にはつながらぬ一種の「カラクリ」であることをわれわれは知っておかねばならない。そのうえで、この国の排出量の二割(含む自家用車)を占めるわれわれ家庭部門が引き続き温室効果ガス排出量を大幅に増加させていることに深く思いをいたさねばならぬ。家電製品が所狭しと置かれている室内、乗り放題の自家用車など考えてみれば、ちょっとした節電、工夫、我慢が温暖化の防止につながることをわれわれはもっと自覚し、即刻、それを行動に移していかねばならない。