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 そしてこの4月4日、170年の歴史を誇る世界最古の報道機関で世界三大通信社の一つでもある「AFP通信」(本社パリ)がネットビジネスへの新たなチャレンジを公表した。

同社とIT企業のクリエイティヴ・リンク(本社東京)ですでに共同運営しているニュースコミュニティサイト「AFP BB News」において、ブログユーザー向けにAFP通信が日々配信する写真ニュースの画像やテキストを無料で個人ブログに掲載使用できるサービスを開始すると発表した。まずシーサー、paperboy&co.、ワイズ・スポーツの運営する3つのブログでサービスが開始され、今後、ライブドアやヤフーなどの運営ブログにも順次、対応していくとしている。

 

世界で最も古い歴史を有し、今日でも日々1000枚以上の写真を提供しつづけるニュース配信会社であるAFP通信が、保有する虎の子の写真映像等をWEBサイトで無料で開放すると公表したことの意味は大きい。

タイム社がポータルサイトにLifeブランドをアイコン・ブランドとし秘蔵写真を無料公開し、ネット広告への展開を展望していることと同じ方向を目指そうとしているのである。

 

歴史あるメディアとしては虎の子とも言うべきコンテンツを無料公開してまで、魅力あるWEBサイトを構築する。その様は人類の財産とも言うべき宝を梃子(てこ)にネット広告という成長マーケットに形振(なりふ)りかまわず殴り込みをかけてきたようにも見える。世界のメディア界のなかでも老舗中の老舗である両社がほぼ同時期に同じようなビジネスモデルにチャレンジすることは、メディアを巡る環境が未曾有の危機的状況にあることを直截(ちょくさい)に語っているように思えてならないのである。

 

そうしたことを見てきたのちにこの国の大手メディアの今日の状況を見ると、その危機感の認識においてあまりにも大きな乖離(かいり)があると言わざるをえないのである。

 

その背景のひとつとして「マスメディア集中排除原則」が大手新聞社等によって実質的にないがしろにされてきた歴史がある。放送事業においても本来適切な競争原理が働くべきはずであったものが、大手新聞とテレビキー局の一体化した系列化の常態化により競争マーケットの整備が大きく遅れてしまい、メディア業界に微温的体質が染みついてしまったことがあげられる。

 

「マスメディア集中排除原則」は放送法第2条2項にいう「放送をすることができる機会をできるだけ多くの者に対し確保することにより、放送による表現の自由ができるだけ多くの者によって享有されるようにする」趣旨の「報道の自由」、「表現・言論の多様性」、そして「報道の質」を担保するきわめて重要な条項であったはずである。

 

「表現(報道)の自由の寡占化」のツケを世界のメディア界の激動の最中に、この国はこれから払わされようとしているのである。その弊害是正へ向けた動きとして、遅まきながらではあるが、2004年11月の読売新聞の第三者名義による日本テレビ株の保有問題などに端を発した集中排除に対する行政指導が、2005年に総務省によってなされたところである。

 

 オンライン読者から生み出される広告収益は紙ベースの読者に対する広告効果に較べ、十分の一から悲観的なものでは百分の一程度という見方があることも事実である。一概にオンラインによる情報発信や広告をメディア変革に対する万能の救世主扱いにするのが危険であることは十分承知しているつもりである。

それでも今日、わが国の大手メディアで繰り返される捏造事件や人的不祥事などを日々、耳にし目にしていると、世界のメディア企業が持つ切迫した危機感とはまったく異なる弛緩した意識しかこの国の大手メディアは持っていないのではないかと、その動きを見るにつけ正直、情けなさと無力感を感じてしまうのである。