「Life」誌は1936年に週刊誌として創刊されてから約70年の歴史を有す、写真を中心とした誌面作りに特徴をもつ「グラフ」雑誌と呼ばれるジャンルの媒体であった。

 

 同誌は第二次大戦中の最高傑作とされるノルマンディー上陸作戦を撮影したロバート・キャパやアフリカ・欧州戦線等の取材で活躍したジョージ・ロジャーなど有名な特派写真家をあまた輩出したことでも有名である。また1938年に日本人写真家、土門拳氏が時の外務大臣、宇垣一成を扱った「日曜日の宇垣さん」が同誌に掲載されたこともある。

 

 そうした伝統ある雑誌がこの420日号を最後に廃刊することが、米メディア・娯楽大手のタイム・ワーナー傘下にあるタイム社によって326日に明らかにされた。同誌はこれまでも1972年に一旦、休刊とし、その翌年の73年には年2回の発行として復刊するなど幾多の変遷を重ねてきた。200410月からは新聞の付録つまり折り込みとして無料週刊誌の形で再刊され1300万部の部数を誇ったものの、業界環境はそのころから逆に厳しさを増し、今般、発行継続が不可能との判断に至ったものである。同社は廃刊の詳しい理由として新聞業界全体の不調(発行部数の減少)に伴なう広告収入の下落をその大きな要因としてあげている。

 

またタイム社はこの1月にも編集スタッフ172人をふくむ289人の従業員解雇や部数約400万を誇る中核誌「TIME」のロサンゼルス等3支局を閉鎖、それに加え「ポピュラー・サイエンス」等18誌を出版大手ボニエ社(スウェーデン)に売却するなど矢継ぎ早に合理化策を公表、実施に移している。そのうえで今後は合理化により浮いてくる経営資源をインターネット関連事業などの戦略分野へ集中的に回すことにしたという。そうしたリストラにも拘らず、タイム社は約130誌もの雑誌を発刊する英米のなかで最大の出版社であることに変わりはない。

 

そしてタイム社はそのHPページで「Life」誌廃刊後のあり方として、高い価値を誇る「Life」のブランド力をアイコン・ブランドとして再生利用すると謳っている。複合的なデジタルプラットフォーム上で多様かつ革新的なツールとして「Life」ブランドを集中的に活用する方向で検討を進めている。具体的にはポータルサイトへの集客戦略のひとつとして、Lifeが保有する1000万におよぶすべての映像を、無料で個人が使用できるようにすると発表したのである。

無料公開される1000万のうち97%余の写真映像は、これまで一般人が目にすることのなかった貴重なものであるとして、この魅力的なポータルサイトへのアクセスを促している。

 

事実、そのコンテンツのなかにはナチスドイツを逃れてきた有能なカメラマン、アルフレッドアイゼンシュタットやLifeの創刊に携った女流写真家のマーガレット・バーク・ホワイト(当時「Fortune」の編集次長)といった錚々(そうそう)たる写真家の作品が含まれている。写真の好事家にとどまらずブロガーなど写真を利用したり、鑑賞したいと思っている一般の人々にとっても垂涎の的となるものである。今年後半には「Life」オンラインサイトで公開を開始するとしている。

 

米国新聞協会(NAA=Newspaper Association of America)は平日版の新聞読者数の平均値を1998年から全米トップ50紙の合計数字で公表するようになった(連続性がないためそれ以前の公表数字との比較は不能)。そこで98年の読者数を見てみると、7904万人であったものが、その後、山谷はあったものの徐々に減少傾向にあり、2006年では7609万人へと▲3.7%の下落の状況にある。

 

同様にNAAの公表資料で広告費支出の動向を見ると、紙ベースでの広告費支出の過去最高額は2000年の486億7000万ドルであるが、紙数の減少とも相俟(あいま)って2006年は466億1100万ドルと▲4.2%の下落となった。

 

その一方で広告業界ではオンライン広告費の増加が目を引き、広告費支出全体に占める比率は06年で5.4%と小さいものの、同ジャンルの数字の掲載を始めた2003年からの3年間の年平均伸び率は30%と驚くような数字をたたき出している。金額も06年で26億6400万ドルへと3年前の2倍強の規模へと急成長を遂げている。

 

さらに紙ベースとオンライン合計の広告費全体の支出動向を見てみると、過去のピークであった2000年の486億7000万ドル(当時はオンライン広告の数字はなし)の数字を上回ったのはようやく2005年になってからである。しかし、その内訳について見ると2000年当時とは異なり、広告業界の構造変革を如実に物語るものとなっている。

つまり紙媒体の広告費減少をオンライン広告の急増が補って2005年に全体として史上最高の広告費支出を記録したのである。その流れは06年も同様で、金額は492億7500万ドル(2006年−2000年=紙ベース広告費▲20億5900万ドル、オンラインベース広告費+26億6400万ドル)と連続して史上最高を更新したが、更新の主役は明らかに交替していることが見てとれる。【下につづく