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エネルギー別の単位熱量当りの炭酸ガス排出量を見ると、石炭を1とした場合、原油が0.8、天然ガスが0.6、原子力・水力がほぼゼロという順にCO2の排出量が少ない形となっている。温暖化対策の面からは原子力や水力が最も有効であり、化石燃料のなかでは天然ガスがひとつの切り札ともなっている。

 

そこでEUのエネルギー事情を見ると、域内には天然ガスのパイプラインが張り巡らされており、現在、北海、ロシアや北アフリカからの十分な供給体制が確立整備されている。また総発電量の約8割を原子力発電でまかなうフランスは原発建設が難しいドイツなどへの電力輸出国となっており、また今後も新規原発建設を強化推進する方針を打ち出すなど、エネルギーの柔軟な融通が可能な温暖化防止に強いエネルギー供給構造にあるといってよい。

さらにEU域内には一次エネルギーの相当数をCO2排出量の多い石炭に依存するポーランド(58%)やブルガリア(36%)などを抱え、今後のエネルギー転換による排出量削減余力も大きいという削減ポケットを有している。そうしたエネルギーの需給構造が温暖化防止に対するEUの姿勢の強さの大きな要因となっているのである。

 

 それに反し、自動車文明大国というエネルギー多消費型の経済構造で成り立つ米国社会や、一次エネルギーの約7割を石炭に依存しながら高度経済成長を続けている中国にとって、温室効果ガス削減型の経済構造への転換は膨大な経済的負担と経済成長を犠牲にする必要がある。90年比8%強の排出量増加を許してしまったこの日本もまた然りである。日本においてはすでに省エネを相当進めてきたなかでの温室効果ガスの増加という結果であり、逆の意味では深刻さは米中よりも大きいとも言える。

 

 EUは世界経済に大きな影響力を有する日米と、今後その存在感を高めてくることが必至の中国の機先を制し、地球温暖化防止においてイニシアチブをとり、目標を一段と高めに設定するという誰も反対できぬ大義を持ち出してきた。「2020年までに温室効果ガス排出量を20%削減」というメッセージは、こう考えてくると、米・中・日の国力を正義と良心の名のもとに削ぎ落としてゆくという国際政治における老練な戦略であるように思えてならないのである。