京王線脱線事故に見た危機管理

 

27日午後1112分ごろ京王線下高井戸駅と桜上水駅間の踏み切り内に立ち往生した乗用車と高幡不動行き普通電車が衝突した。

 その夜会食を終えたわたしは1120分過ぎに京王線新宿駅の改札口に辿り着いた。電車が不通となった直後で乗客の固まりが改札口内外にそこかしこにでき始めたところであった。構内アナウンスで「接触事故が起こり、列車ダイヤが混乱している」「新宿・下高井戸間でピストン運転をしている」との情報が伝えられていた。その区間より遠方に住むわたしは、さてどうしたものかと迷い、中央線か小田急線かどちらかで途中まで行き、そこからタクシーで帰宅するしか方法がないかなどと酒のまわった脳みそで考えていた。新宿から直接タクシーで帰宅となると料金も馬鹿にならない。しかし深夜にしかも酒の入った身体でほかの線に乗り換え、遠回りして最寄駅と思われるところへ向かい、そこでさらにタクシーに乗って自宅へ戻ることを考えたとき、さすがにどっと疲労感がわたしを襲った。「こんな夜中に」、いくら仕事とはいえ深夜まで飲み過ぎた自分の不摂生をとがめることはせず、正直、京王電鉄に舌打ちしたものである。そして「えいっ!タクシーで帰ろう」足は地上のタクシー乗り場に向かいかけた。

 そのとき「タクシーでお帰りの方は、必ず領収書またはレシートをいただいてください。料金を払い戻します」と、アナウンスの声が聴こえた。わたしは、それは助かったと階段を昇り、すでに40人ほど列ぶタクシー乗り場の列の最後尾についた。最前方を見ると、タクシーが一台もいない。しばらくして一台、そして一台やってくるといった状態で、珍しく空車が少ない。急ぐ人はすでにどんどんタクシーで帰っていたのだろう。10分ほどして後ろを振り返ると、50人どころでない人がわたしの後ろに連なっている。バブル以来、久しく目にせぬ光景であった。しかし人情とは不思議で現金なものである。これが自腹でタクシー帰宅となれば、こんな深夜にこんなに待たされてと、怒りが猛烈にこみ上げてくるはずだが、列んでいる人の表情も心なしかゆったりとしているように見えた。結局、私の帰宅は午前1時過ぎと、午前様であった。

 しかし、電車が不通となったわずか10数分後にはタクシー代まで負担すると決断した危機管理が、乗客の心理的ストレスや肉体的疲労はもちろん、企業の対応への不満を相当部分軽減するのに大きな効力を発揮したと感じた。そして通常見られる改札口での駅員とのトゲトゲしいやりとりやいざこざもほとんど耳にせず、見ることもなく緊急時の危機管理の見本を見せられたような気がした。これは現場独自の判断でできるはずはなく、そうした危機管理マニュアルが日頃から整備徹底されている証であると、沿線住民としては少し誇らしく思った。

もちろん衝突現場近くの住民の方々の衝撃と今後への不安が通り一遍でなく、大きいことは想像に難くないが、こうした危機管理ができる企業であればこの事故を契機にそうした安全対策もしっかりやってくれるのではないかと感じたものである。

 

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