「古都散策」――大悲山花脊

  

 京都の北嶺、鞍馬山のさらに北側に花脊(はなせ)というひなびた邑がある。水道も都市ガスもまだ通っていない山麓に、摘み草料理で有名な「美山荘」という料理旅館が人里を遠く離れたところに自然の懐に抱かれるようにしてひっそりと建っている。

 花脊の山

 

美山荘から花脊の山を

 

離れからの清流

 

 

 

 

 

 

 

 

 古刹、峰定寺(ぶじょうじ)の宿坊を改装したもので、一晩の宿泊客は本館と離れで四組(場合によっては五組)といういたって小規模で瀟洒な宿である。離れの下には清流が流れ、秋になると室外に張り出した縁台から、絢爛な紅葉が瀬音とともに手に触れるほどの近さで見える。

 

 美山荘でおもてなしをしてくれる女性たちは、薄い紫がかったグレーの作務衣を身にまとっている。その装束は活動的な美であり、しかも楚々とした印象を与え、山深い宿におよそ良く似合っている。

 

 大女将の中東和子氏と若女将の佐知子氏は、まるで親子というか姉妹のように見える。お二人の美しい白い肌は、もちろん生来のものであろうが、この花脊の冷たく清冽な湧き水でさらに美しく磨き上げられたものといってよい。

 

 部屋を担当してくれる若い女性も礼にかなった所作で、ほのかに香の薫りの篭る室内の凛とした空気に見事に馴染んでおり、もてなしを受けるわたしたちも、いつしか清々しい清澄な心持ちになっていく。彼女達の何気ない立ち居振舞いやちょっとした会話の遣り取りのなかに、お客の心をゆっくりとほぐしていく何か隠し味のようなものがふくまれているように思えてならない。

 

 

美山荘本館

 

美山荘離れへ

 

個室から 

 

 

 

 

 

 

 

 

 今年は、花脊に蛍を見に行く予定である。もう少しの辛抱で、この東京のわずらわしい喧騒から離れることが出来るかと思うと、一日、一日が過ぎていくのがまどろっこしく感じられ、そして、その日が来るのを待つ想いは日毎に強まってくる。

 

 今回、旬の摘み草料理の御品書きは何だろう・・・。

都会では、ことさらにオーガニックとか、無添加食材とか、うるさいほどに「食材」の差別化を喧伝する。最近は、それが逆に耳に障るほどになってきた。自然が人間から遠ざかっていくにつれ、いや、人間が自然を遠ざけるにしたがって、そうした「ことさら」の声はわたし達の自然への耳を聾していくのだろう。

 

もう幾つ寝ると・・・、美山荘♪