3.サンルームは情報の交差点 

(三月十九日日曜日掲載)

 

 桜が満開の頃に本格的リハビリに入った。午前に理学療法(PT)、午後に作業療法(OT)を一時間ずつ受ける。少しでも早く訓練をと思う患者からみてその治療時間は余りにも少なかったが、健康保険診療の適用が二時間しか効かず巳むを得なかった。この四月から保険外治療との混合治療の認可により三時間程度まで時間数が延長される模様だが、こうした規制の緩和は患者の目から見て余りにも遅きに失したと云わざるを得ない。

 

転院後一週間程してサンルームと呼ばれる患者の溜り場に公園デビューした。すると、長椅子のど真中に手ぶらの患者が陣取っていた。その両脇も杖を持たぬ患者が占め、二脚の肘付き椅子には杖を手にした患者がいた。新参者の私を含め車椅子の患者たちは入り口の辺りにひしめいていた。「見かけぬ顔だが、いつこちらに?」ソファー中央の人物が私に下問した。牢名主とはこうした人物かと思うほど声には威厳があった。「先週、信濃町から」と素直に応えた。テーブルとの狭い隙間を杖無しで縫うようにしてソファーに坐った事実の重み、実力に患者として格の違いを実感させられたのである。そしてサンルームでの話題は医師、療法士の評判、訓練内容の是非等院内事情、治療の妥当性にまで及び、知らぬこととはいえ医療関係者にとっては思いもかけぬ辛辣な場であり、患者にとっては情報価値の極めて高い処であった。ソファー真中の男は自信に溢れ、飛び交う情報に都度、的確なコメントやアドバイスをした。私の耳は日々、ダンボのように膨れ上がった。

 

 ある時、同時期に入院した人物と、似通った障害を抱えるのに互いの訓練内容が違うことに話が及んだ。相手は既にエアバイクの筋トレに入っていた。そう思って眺めると気のせいか体つきもしっかりし、杖も殆ど必要ないように見えた。翌日、PTの先生に何故、自分は筋トレをしないのかと問うた。私は運動機能障害が少なく逆に感覚障害が大きい、しかも過敏性筋肉の持ち主との応えであった。だからその人物とは異なり、感覚障害の改善を手助けする方法を盛り込んだ裸足歩行や踵でのクッション踏み等感触確認のメニューになっていると。私は脳卒中のリハビリは複合障害に応じた患者個々のonly oneであることを理解した。